2018/04/16
熊本地震から2年、首長の苦悩と決断
前震を超える本震の衝撃
翌日、5回目の災害対策本部会議を終えた私は、水道もほぼ全面復旧の目処が立つなど、初動対応がある程度落ち着いたと思われたので、夜の10時か11時頃、荷物を取りに、一度家に戻りました。その際、疲労のためか眼鏡もかけたまま寝てしまっていたのですが、それも束の間、「ドーン」と大きな揺れを感じて、飛び起きました。前震を遥かに超える強い揺れにこちらが「本震」だったのだと直感しました。
急いで市役所に向かう途中、暗闇の中を市民が毛布をかぶり避難していく姿は、とても恐ろしい光景でした。そこからはもう、眠気も吹っ飛んで、「やらなければ」という使命感で体が動いていたと思います。
午前2時を過ぎ、市役所には少しずつ職員が集まってきていましたが、一方で、「熊本市民病院が倒壊した」とか「龍神橋が落橋した」とか、確証のない情報も次々と入ってきていました。とにかく今は、この陣容で対応するしかないと覚悟を決めた私は、1人でも多くの生存者を救出するには、72時間以内が勝負だと思っていましたので、職員にそのことを伝え、関係機関や他自治体などにあらゆる支援を求めるよう指示を出しました。
災害対策本部を通じた情報収集と発信
本震後、初めて災害対策本部会議を開催できたのは16日の朝6時でした。熊本市役所は3階に災害対策本部室、4階に情報調整室、5階に指揮室があるのですが、このことについては、私が市長に就任したときから、課題だと感じていました。しかし、現状はこれで対応するしかありませんでしたので、職員は行ったり来たり大変だったと思いますが、何とか対応しました。
最初は、災害対策本部会議にマスコミを入れることにも躊躇しましたが、情報をクローズにしてしまうと、マスコミとの対立や市民の不信感を生んでしまうため、18日以降の災害対策本部会議は、マスコミに対してフルオープンとすることにしました。地域防災計画では「プレスセンターを開設すること」と定めていましたが、そんなことには意識がいかず、対応できていませんでした。発災直後の最も情報が少ない中であっても、把握している限りの情報を伝えることで市民へのメッセージを発信すべきでした。そこは大きな反省点です。
SNSを活用した情報収集と発信
――長野県佐久市の対応事例を参考に
一方で、テレビでは被害の大きかった地域の映像を集中的に流しており、被災の全体像が分からなくなっていました。私も災害対策本部会議が終わる度に記者会見を行っていましたが、それでも「市長の顔が見えない」と言われていました。ですから、私はSNSを使って自ら情報発信をしていくべきだと考えました。今は、情報技術が発達した時代ですから、SNSも含め、使えるツールを全て使い、個人個人に情報を届けるということの方が、市民に安心してもらえる近道だと思いました。状況がどうなっているのか分からないからこそ、市民も疑心暗鬼になって不満が募っていくのではないかと思います。
また、平成26年豪雪の際、友人でもある長野県佐久市の柳田市長が、twitterを使って被害状況の把握を効率的に行っていたこともヒントとなりました。「災害ごみが溢れているごみステーション」や「水道の漏水箇所」の住所と現場写真を担当課にメールしてほしいと市民に直接呼びかけ、幅広い情報を集めました。
もちろん、情報発信のタイミングには十分気を付ける必要があります。私も、個人のtwitterで情報を発信する時は、担当部局に確認したり、すでにホームページに掲載していることを発信したりするよう心がけていました。
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