2021/11/04
事例から学ぶ

住設機器製造・販売のTOTO(福岡県北九州市、清田徳明社長)は今年度「新共通価値創造戦略TOTOWILL2030」を掲げ、2030年に目指す姿に向け新たなスタートを切った。トイレや洗面・浴槽など主力の水まわり製品は海を越え、前年度決算では売上の4分の1が海外事業。拠点や社員が各地へ広がるなか、同社はBCP・危機対応と一体となったリスクマネジメント活動を展開する。カギは、多岐にわたる部門間・拠点間での情報の共有、一元化。仕組みと取り組みを聞いた。
TOTO
福岡県北九州市
❶情報共有を迅速化し潜在リスクを早期発見
・メンテナンス担当者の報告書を共有。「焦げ」などのワードがあれば直ちにリスク責任部門へアラート
❷危機事象の緊急連絡を社員に義務付け情報を一元化
・危機事象が発生した場合、リスク管理統括室へ24時間以内に一報を入れることを全社員に義務化。情報を集約して経営層への報告窓口を一本化するとともに、危機事象をデータベース化して未然防止・再発防止に役立てる
❸危機を機会に変えたコロナ禍でのグローバル活動
・拠点間の物資支援など、コロナ禍での活動を皆が視聴しやすいようにDVDで共有。普段顔の見えない社員同士が企業理念のもとで気持ちを一つにし、目線を合わせる機会に
中国・アジア、欧米などに供給網・販売網を広げるグローバル住設事業は連結売上高約5800億円、社員はグループ・関連会社を含め約3万3800人におよぶ。拠点は国内44(うち工場20)、海外32(同19)、ほかショールームが計112カ所。リスクマネジメントのカギは、多岐にわたる部門間・拠点間での情報の共有、一元化だ。
リスクマネジメントの推進体制と対象とする重大リスク、活動サイクルは図のとおり。事業継続にかかるリスクを年度当初に洗い出し、影響度と発生頻度からマトリクス評価を行って、それぞれ未然防止・低減活動を推進。その状況を年4回、副社長を委員長とするリスク管理委員会にあげてモニタリングする。
重大リスクについては、一つ一つに責任部門を決めている。製造物責任やリコールといった製品系であればお客様本部、個人・機密情報漏洩などのIT系であれば情報企画本部といった具合。それぞれが責任をもって未然防止・低減活動を推進し、結果をリスク管理委員会に報告、許容範囲を超える事象が発生すれば影響の最小化を図り再発防止策を講じる。
一連のカギは、前述したように情報の共有と一元化。特にPDCAの「D」において、各責任部門が他の部門・グループ会社らといかに情報を共有しながらリスクの未然防止・低減を進めていけるかにある。
潜在リスクを早期発見する情報共有体制
例えば製造物責任違反やリコールは、売上への影響が大きいうえブランドの毀損にもつながる重大リスク。それがここ10 年顕在化していないのは、ISOにもとづく品質管理システム、製品開発時の設計審査、出荷時の検品システムが効いているのに加え、使用段階の不具合を素早くキャッチする体制の役割も大きい。つまり潜在リスクの早期発見だ。
グループのメンテナンス会社が日々行っている保守点検で不具合が発覚したら、全国どこであってもリアルタイムで責任部門のお客様本部へ連絡が届く。いわば現場担当者があげる日報の共有だが、ネットワーク上に入力した報告書に「焦げ」などのワードがあれば直ちにヒットし、アラートを飛ばす仕組みが特色だ。
「例えばお客様が浴室内でタバコを吸って浴槽が焦げてしまった、と。担当者がそうした報告を入力すると『焦げ』という単語に反応し、自責・他責を問わずお客様本部にすぐ情報が行く。使用段階の製品を見守る仕組みは以前からありましたが、現在はより速やかになっている」。リスク管理統括室リスク管理グループリーダーの桐谷峻介氏はそう説明する。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方