センセーショナルな言葉だけ切り取られる
第17回:情報活用の方法論(2)

多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
2022/06/08
再考・日本の危機管理-いま何が課題か
多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
専門家の発言であろうとも、金科玉条のごとく鵜呑みにすることに危険がともなうことをこれまで語ってきた。それは専門家の発言にいくつかのパターンがあり、それを前提とした然るべき思考がなされていないことで生じる。パターンは複数あるので、パターン別にその注意点を含めて論ずる。
パターンの一つは、専門家ゆえに表現の正確性にこだわり、一般にはかえって分かりにくく、誤解を招くことだ。分かりやすく説明するための表現上の嘘にならない程度の比喩的表現が不十分で、どうしても強調したいことが先走り、ていねいに表現すればするほど、一般人には誤解をともなうケースであろう。
このパターンの場合、本来であれば伝えるべきメディアが適切に解釈し表現するべきなのだが、その能力がないのか、意図的に都合よくセンセーショナルに切り取り表現するのか、どちらにしても論旨が曲がって伝わることが多い。
具体的な例として「8割おじさん」と称される京都大学の西浦博教授(発言自体は北海道大学教授時代のもの)が挙げられる。
最初に西浦教授の名誉のためにも断っておくが、教授の研究成果は感染症の数理モデル化等最先端の成果を誇り、実績豊富で優秀な研究者であることは疑いようがない。そして、一度、筆者の疑問、確認したいこと、見解を質問させていただく機会があったが、筆者のようなド素人の質問にもていねいに、かつ紳士的にお答えいただくなど、人間的にも尊敬に値する方である。
結局、言葉を切り取り、センセーショナルな発言としてメディアが利用した構造であり、ある意味、西浦教授もメディアの被害者と感じている。
「42万人死ぬ」は非常にセンセーショナルな響きである。この発言を聞き、その根拠となる論理を確認したく、当時北海道大学のホームページを確認し、いくつかの論文も拝読させていただいた。内容的には医学系の論文というより数学・統計・データ分析系の内容であり、微積分程度の知識があれば読める内容であった。
結論からいうと極めて単純、ある条件を元に数学的に計算したものである。実効再生産数にもとづき感染は拡大し、致死率にもとづいて死者が発生する。この感染拡大は集団免疫を獲得するまで拡大し、集団免疫と共に収束する。当時筆者も、この論理を元に、より簡易な計算をしてみたら近しい値が出ている。
しかし、これは「何もしなければ」が前提なのだ。それは事実上あり得ない設定であり、だから対策が必要だと訴えているのだ。専門家としてリスクを最悪シナリオで提示するのは至極当然のことだろう。
現実世界では、この「何もしなければ」は実現しない。危機を感じた個々人の行動は心理的に抑制されるだろうし、マスクや飛沫飛散防止、強制換気、行動規制に加え、個々人の手洗い、うがい、検温・血中酸素濃度測定などの健康管理は「やれることはやる」に働くので、42万人が死ぬことは決してなかったのだ。加えて、時系列で、ウイルスの変異やワクチン、治療薬の投入などの要素が変化することを忘れてはならない。
再考・日本の危機管理-いま何が課題かの他の記事
おすすめ記事
「ビジネスイネーブラー」へ進化するセキュリティ組織
昨年、累計出品数が40億を突破し、流通取引総額が1兆円を超えたフリマアプリ「メルカリ」。オンラインサービス上では日々膨大な数の取引が行われています。顧客の利便性や従業員の生産性を落とさず、安全と信頼を高めるセキュリティ戦略について、執行役員CISOの市原尚久氏に聞きました。
2025/06/29
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/24
柔軟性と合理性で守る職場ハイブリッド勤務時代の“リアル”な改善
比較サイトの先駆けである「価格.com」やユーザー評価を重視した飲食店検索サイトの「食べログ」を運営し、現在は20を超えるサービスを提供するカカクコム(東京都渋谷区、村上敦浩代表取締役社長)。同社は新型コロナウイルス流行による出社率の低下をきっかけに、発災時に機能する防災体制に向けて改善に取り組んだ。誰が出社しているかわからない状況に対応するため、柔軟な組織づくりやマルチタスク化によるリスク分散など効果を重視した防災対策を進めている。
2025/06/20
サイバーセキュリティを経営層に響かせよ
デジタル依存が拡大しサイバーリスクが増大する昨今、セキュリティ対策は情報資産や顧客・従業員を守るだけでなく、DXを加速させていくうえでも必須の取り組みです。これからの時代に求められるセキュリティマネジメントのあり方とは、それを組織にどう実装させるのか。東海大学情報通信学部教授で学部長の三角育生氏に聞きました。
2025/06/17
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方