(出典:Shutterstock)

今回は、英国に本拠地を置き、リスクに関する情報分析を手がけるVerisk Maplecroft社が2022年7月に発表した報告書をご紹介する。タイトルは「環境リスクの見通し」といった意味になるが、本報告書の内容は単に環境リスクにとどまらず、サプライチェーン・マネジメントにおいて考慮すべきESG(環境・社会・ガバナンス)リスクなどの観点も含む幅広いものとなっている。

なお本報告書は下記URLにアクセスして、氏名やメールアドレスなどを登録すれば、無償でダウンロードできる。
https://www.maplecroft.com/insights/analysis/world-unprepared-for-magnitude-of-cascading-climate-risks/
(PDF 30 ページ/約 18.4 MB)

本報告書は冒頭の要約部分(Executive summary)のあと、次のような構成になっている。

・ World ‘unprepared’ for magnitude of cascading climate risks
(世界は、連鎖する気候リスクの規模に対して準備ができていない)
・ Green energy dilemma stirs geopolitical hornet’s nest
(グリーンエネルギーのジレンマが地政学的なスズメバチの巣をかき回す)
・ Companies face ESG trade-offs in scramble to replace Russian minerals
(ロシアの鉱物の代わりを急いで探すときに、企業はESGのトレードオフに直面する)
・ Interventionism goes green
(干渉主義政策はグリーンに向かう)


まず最初のセクションでは、気候変動によってさまざまな事象や悪影響が連鎖的に発生している状況が説明されている。これは本報告書に掲載されている図がとても分かりやすいので、ぜひ前述のURLにアクセスしていただきたいと思うが、例えば気候変動によって水不足が慢性化すると、水不足となった地域から都市部への移住が促進され、都市の過密化や都市インフラへの負担増につながる。また農作物の不作が経済の悪化や資源の奪い合いを招き、企業の信用リスクや政情不安、紛争などが発生するおそれがある。

このように気候変動によって連鎖的にもたらされる悪影響に対するぜい弱性を国ごとに評価した結果が図1である。青色の部分が「Insulated」すなわち気候変動による悪影響から保護されているという部分である。これに対して赤色の「Vulnerable」はそれらの悪影響に対してぜい弱な国々であることを示している。

画像を拡大 図1.  気候変動による悪影響に対する各国のぜい弱性 (出典: Verisk Maplecroft / Environmental Risk Outlook 2022)


なお本報告書での説明によると、図1は各国の状況を次の5つの観点から評価した結果とのことである。

・気候変動に対するぜい弱性
・経済的開発
・健康
・政治的リスク
・社会的課題

一般的には、このようなランク分けを行う場合、図1で緑色で表示されているような中間ランクに対しては「中間」「中庸」「どちらでもない」というような名前が付けられることが多いが、ここでは何らかのきっかけで「Vulnerable」に移って行きかねないリスクがあるということで、「Precarious」(不安定な)と表現されている。つまり、図では中央に位置しているが、これらが将来左側(Insulated)の方に移る可能性は低く、右側の方に移ってしまう可能性の方が高いのである。

本報告書ではダムのたとえで説明されているが、「Insulated」に分類されている国々(概ね高所得国)では前述の5つの観点に関連するさまざまな対策が実施されており、これらがダムのようになって、気候変動が社会に悪影響をもたらすのを防いでいる。ところが「Precarious」の国々においては、対策が部分的に欠けていたり不十分なところがあり、どこかから水が流れ始めると亀裂がどんどん広がって大規模な決壊に繋がってしまうように、社会に対して深刻なインパクトをもたらしかねないという。これも本報告書内では分かりやすく図示されている。

また隣接する他国からの影響を受ける可能性も指摘されている。例えば水不足などによって大規模な移住が発生する場合、自国内にとどまらず隣国への移住が進む場合もある。このように気候変動による連鎖的な悪影響は国境を越えて広がっていくことにも留意しなければならない。