2024/02/23
防災・危機管理ニュース
「欧州の穀倉」と呼ばれる穀物輸出大国、ウクライナに対するロシアの侵攻は、食料不安が世界を威圧する武器となる現実を示した。侵攻の結果、穀物だけではなく、肥料と飼料の価格が高騰し、日本の農業も揺さぶりを受けた。食料価格の高騰はいったん沈静化したものの、「食料の武器化」への懸念に対応し、日本政府は食料供給が途絶する不測の事態に備えた法整備に乗り出した。
2022年2月の侵攻開始後、国連食糧農業機関(FAO)が算出する世界食料価格指数は一時、過去最高に跳ね上がった。コロナ禍の反動による需要の増加に穀物の供給懸念が重なったためだ。
国連とトルコが両国を仲介し、ウクライナ産穀物の安全輸送を保障した黒海穀物合意が成立した22年7月に、価格は侵攻開始前の水準に戻った。しかし、23年7月にロシアが合意から離脱し、供給不安は続いている。
日本では食品価格の上昇が海外と比べれば抑制されたが、肥料と飼料の価格高騰が国内農家の経営を圧迫した。食料安全保障に詳しい針原寿朗・元農林水産審議官(住友商事顧問)は「農業資材への影響は想定されていたが、現実は予想以上に深刻だった」と指摘する。
政府は、肥料と飼料のほか、小麦、大豆など国民生活に重要な品目について、輸入依存から脱却し、国産化を推進することを食料安保の柱に据えた。「農政の憲法」と呼ばれる食料・農業・農村基本法の改正案や、食料不足への対処を定めた食料供給困難事態対策法案を今国会に提出する。
コメ、小麦など重要な品目の供給が2割以上減少する場合や、国民に供給できる食料が1人1日当たり1900キロカロリーを下回る場合、首相をトップとする政府対策本部が生産者や民間事業者に増産を要請したり転作を指示したりできるようにする。
ただ、いざというとき効果的に実施できるかは未知数だ。食料供給不足を招くリスクは、異常気象、家畜伝染病のまん延、感染症による物流の混乱、ウクライナ侵攻のような戦禍など多岐にわたる。針原氏は「各リスクの発生頻度や影響度に基づく対策の方向性を整理し、民間との協力体制を日ごろから構築しておくことが大事だ」と強調する。
〔写真説明〕インタビューに答える元農林水産審議官の針原寿朗氏=14日、東京都千代田区
(ニュース提供元:時事通信社)
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