2026/02/09
オピニオン
停電時に問われるBCP担当者の責任
2026年7月の猛暑日。気象庁は連日「電力需給ひっ迫」を伝え、節電を呼び掛けていた。ある日の夕暮れ、窓の外は急に暗転し、雷鳴がビルの谷間に反響する。その瞬間、天井灯が一斉に消え、空調の低い唸りもぷつりと途切れた。オフィスは闇に沈み、誰かが息をのむ気配だけが残る。
次の瞬間、BCP担当である私のスマートフォンが震えだした。
「ネットは使えないのか!」
「懐中電灯はどこだ」
「ポータブル電源はありますか」
「次に何をすれば……」
着信は鳴りやむことなく続く。
——備えの乏しさが白日の下にさらされていった。
このシナリオは、決してフィクションではない。電力需給の逼迫、都市インフラの老朽化、巨大地震の被害想定が重なり合う現在、企業は「停電」をBCPの中心課題として捉え直す必要がある。
■今夏の停電リスクは本当に高まるのか
政府は2026年夏の電力需給が厳しくなる可能性を示し、特に首都圏では発電所の長期停止が重なることで、8月の予備率が1%を下回る恐れがあると指摘している。過去を振り返れば、地震で火力発電所が停止した直後に猛暑が重なり、需給ひっ迫警報が発令された例もある。さらに送配電設備の事故による鉄道停止、変電所トラブルなど、発電所以外が原因の停電も都市機能を直撃する。災害時の被害想定では、首都直下地震で最大1600万戸超が停電する可能性も示された。
「停電が長期化すれば、通信障害や決済手段の制約、医療・物流機能の低下など、都市機能全体への影響が拡大し得る」
■ブラックアウトはなぜ起きるのか
東京電機大学名誉教授の加藤政一氏は、大規模停電のメカニズムを「周波数低下」と「UFR(不足周波数リレー)」という安全装置から解説する。供給が急減すると系統周波数が下がり、発電設備を守るために負荷を強制遮断する。それでも追いつかなければ全域停電に至る。北海道胆振東部地震では、この連鎖が一気に広がった。加藤氏は「最近の大規模停電はほとんどすべてがUFRの動作による」と説明する。
一方で、日本の送電網は過去より強靱化しており、平時に全域ブラックアウトが起きる可能性は低下しているとも指摘する。しかし、首都直下地震や南海トラフ地震など、広範囲の発電設備が同時被災すれば話は別だ。さらに再生可能エネルギーの大量導入による系統変化、海外での連鎖停電事例も挙げながら「再エネを増やしたら、その分の安定的な電源が必要になる」と強調する。
■停電しても止まらない工場はどう備えるか
カルビー新宇都宮工場では、国内初の工業団地型のコージェネレーションシステムにより電力供給が比較的安定している環境にありながら、年1回のブラックアウト訓練を継続している。
工場全停電を想定し、外部エネルギーセンターと連携して非常用発電機から段階的に立ち上げる訓練を実施。BIA(事業影響度分析)に基づき、どの製品ラインを最優先で復旧させるのか、誰が判断し、誰が操作するのかを事前に決め切っている。
担当者はこう説明する。「まずは照明などのユーティリティ設備が最優先。その後は生産品目によってラインに電力を割り振る」
訓練後には必ず振り返りを行い、フォークリフトの駐車位置や手順書の不備といった細部まで改善を重ねる。机上の想定ではなく、現場で動くことで初めて露呈する弱点を潰し続けている点が特徴だ。
■オフィス停電の初動対応は誰が担うのか
レーザーテック本社では、全館消灯を伴う訓練を実施した。階段は真っ暗、トイレの水は流れない。負傷者が出た想定で無線連絡を回し、フロア図に被害を書き込む。6000字超の詳細なシナリオで、分単位の行動を検証する。
BCP担当者は語る。「発災して初めて体験するのでは遅い」
訓練を経て同社では、蓄光テープの全館設置、ヘルメット装着ライトへの変更など、具体的な設備改善が実現した。
■停電対策の考え方——規模と手段を整理せよ
停電対策を検討する基本フレームは「縦軸=対象規模」「横軸=電源手段」と説明するのは、東日本大震災以降、徹底した停電対策に取り組む北良の笠井社長だ。
重要なのは「どこで、何のために、どれだけ電気が必要かを数値で把握すること」だという。
電圧・電流・消費電力の基礎から解説し、感覚的な備えではなく定量的BCPへ転換する必要性を説く。
停電は必ず起きる。その前提で、継続すべき業務を平時に決めておく、訓練で「動けない理由」を洗い出すことが重要。冒頭の暗闇のオフィスで、あなたは即座に指示を出せるだろうか。それとも、誰かの電話に答えながら立ち尽くすだろうか。
BCPリーダーズVol.71はこちら
https://www.risktaisaku.com/category/BCP-LReaders-vol71
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