2026/09/28
危機管理の伴走者たち
全国各地で、豪雨災害が頻発している。2026年8月13日には、千葉県内で記録的な大雨が発生し、大きな浸水被害をもたらした。「命を守る行動」が最優先事項ではあるが、建物の浸水被害も防ぎたい。望ましいのは、人も建物も守れる備えだ。防水板や防水扉の設計製造を行う宇根鉄工所(広島県東広島市)では、人手を介さず水の力で起きあがる浮力起伏式防水板を開発している。代表取締役社長の宇根利典さんに、水害リスクに対する備えを聞いた。
Profile
宇根 利典【うね・かずのり】
1971年生まれ、広島県出身。広島大学の工学部を卒業し、新卒でゼネコンに就職。現場監督を5年務めたのちに、1999年に家業の宇根鉄工所に入社。2009年に、4代目の代表取締役社長に就任した。2010年、外部環境と自社を取り巻く経営環境の変化から、止水製品の新開発に乗り出す。
※本記事は「月刊BCPリーダーズvol.78(2026年9月号)」に掲載されたものです。
起伏堰(きふくぜき)から着想を得て止水製品を開発
――なぜ、防水板や防水扉を製造設計するようになったのでしょうか?
50年以上も事業の中心だった公共事業が、政府の公共事業予算を抑制した時代背景により工事自体が減少し、私が代表取締役に就任した2009年の段階で、もはや「公共工事だけでは食べていけない」状況になっていたからです。
当社は、1916年に建築金物を製造する鉄工所として創業しました。1955年頃からは、公共工事の仕事を請けるようになり、広島県内の小さな水門から始めて、これまでに橋や連絡歩道橋、高潮や津波の際に通路を封鎖する防潮扉などを多く
手がけてきました。公共事業に頼れない危機感から2010年に、専属の設計担当者を任命し、防水板の開発に乗り出しました。
――公共事業の経験は防水板開発に生かされていますか?
開発の決め手になったのは、過去の経験です。1988年に、世界遺産の厳島神社があり、日本三景である安芸の宮島を高潮から守るため電動起伏堰(きふくぜき)を納入していました。通路の一部が立ち上がって海水の流入をブロックします。この経験が、止水板開発につながっています。
市場の声をもとに自動で動く浮力式を開発
―― 地面から防水板が立ち上げるのに、水圧と油圧、浮力の3つの力を使い分けていますよね。違いを教えてください。
板を動かす動力源として水圧式は、水道水を使うのでクリーンです。万が一漏れたとしても油のように環境を汚染しなく、火災の心配もない。水道なのでレバーをひねるだけで使えて電気も不要です。しかし、油と比較すると"力を伝える能力"が弱い。さらに流動性が高い液体なので、隙間に入り込んで漏れやすい。素材が鉄だと錆びるので、ステンレスを利用することになり必然的にコストも高くなる。油圧式では力を伝える能力が高く、高い圧力を利用できる。安価なので、多くの場所で利用されています。
当初はクリーンである水圧式の利点に注目していました。そして開発した製品が、水道水圧で動く「水道水圧起伏式防水板 アクアシャッター」です。最初の導入先は、広島銀行(本川支店)の地下駐車場入り口でした。その後は多少引き合いがあったものの、順調に売れたわけではありませんでした。
――市場が求められているものは違ったのでしょうか?
誰が見ても直感で操作できる防水板が売れると考えていましたが、実際は違いました。お客様は、自動で動いてメンテナンス費がかからない製品を欲しがっていたからです。
そこで、水の浮力で起き上がる「浮力起伏式防水板 アクアシャッターf」を開発しました。防水板のピットに入った水の浮力によって自動で起きあがり、水が引いたら勝手に閉じます。油圧ジャッキなどの機械装置がなくメンテナンス不要で、必要なのは日常清掃だけです。管理者の操作もいらないので、建物の管理に対する責任や過失を少なくできる。ただし導入するには、差し込み式などに比べて高価なので、水害リスクに対する費用対効果を検討する必要があります。
インタビューの他の記事
おすすめ記事
-
操作不要の防水板で水害リスクを低減
全国各地で、豪雨災害が頻発している。2026年8月13日には、千葉県内で記録的な大雨が発生し、大きな浸水被害をもたらした。「命を守る行動」が最優先事項ではあるが、建物の浸水被害も防ぎたい。望ましいのは、人も建物も守れる備えだ。防水板や防水扉の設計製造を行う宇根鉄工所(広島県東広島市)では、人手を介さず水の力で起きあがる浮力起伏式防水板を開発している。代表取締役社長の宇根利典さんに、水害リスクに対する備えを聞いた。
2026/09/28
-
-
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2026/09/15
-
-
-
-
防災は面白くないと広がらない
地震が起きたとき、スマートフォンに通知された情報を頼りに避難を判断することが多いだろう。緊急地震速報の情報から、いまどのように動くべきかを判断できる、そんな身近な危機管理を習慣づけた1 社が、アールシーソリューション(東京都新宿区)だ。2010 年に提供開始したスマートフォンアプリ「ゆれくるコール」は、緊急地震速報を受信できるアプリとして多くのユーザーが利用している。代表取締役の栗山章さんは、数多くのユーザーに防災の重要性を広めてきた一方で、ビジネスとして成り立たせる難しさにも直面してきたという。これまでのサービス開発の経緯や、防災ビジネスへの価値観を聞いた。
2026/09/09
-
被災施設への再入場判断「戻ってはいけない」では解決しない避難後の問題
大地震が発生し、安全な場所へ避難して一息つくと、人々には「ひとまず危険のピークは過ぎた」という根拠なき安心感が芽生える。そして、さまざまな理由で「避難してきた場所に戻りたい」といった気持ちが生じる。しかし、被害がどの程度なら戻ってよいのかについての明確なルールや事例は、どこを探してもあまり見当たらない。 国には応急危険度判定という仕組みや、施設管理者が建物を緊急点検するための指針などもある。が、これらは避難直後の「戻りたいニーズ」に応える仕組みではない。ここに、避難直後の「再入場」という古くて新しい問題がある
2026/09/09






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方