2026/09/09
危機管理の伴走者たち
地震が起きたとき、スマートフォンに通知された情報を頼りに避難を判断することが多いだろう。緊急地震速報の情報から、いまどのように動くべきかを判断できる、そんな身近な危機管理を習慣づけた1 社が、アールシーソリューション(東京都新宿区)だ。2010 年に提供開始したスマートフォンアプリ「ゆれくるコール」は、緊急地震速報を受信できるアプリとして多くのユーザーが利用している。
代表取締役の栗山章さんは、数多くのユーザーに防災の重要性を広めてきた一方で、ビジネスとして成り立たせる難しさにも直面してきたという。これまでのサービス開発の経緯や、防災ビジネスへの価値観を聞いた。
Profile
栗山章【くりやま・あきら】
1963年生まれ、新潟県出身。大学卒業後、大手IT企業に就職。システムエンジニアとして従事する。2002年、アールシーソリューション株式会社を設立、代表取締役に就任。2006年に防災市場に出会い、参入を決意する。2011年の東日本大震災の発災時では、緊急地震速報を受信できる唯一のスマートフォンアプリとして、防災と減災の重要性を世間に広めたきっかけを作った。ITを活用して、必要な情報を必要な人に届けることを目的に、活動している。
※本記事は「月刊BCPリーダーズvol.77(2026年8月号)」に掲載されたものです。
――防災ソリューション会社に転換したきっかけは?
アールシーソリューションは2002年に創業しました。今でこそ防災ソリューション開発のIT会社として認知されていますが、当初は防災に関わっていませんでした。当時、小さな会社が大手企業との差別化を図るために、「ニッチ市場を目指す」考え方があり、当社もその考えで活動していました。創業から数年間は、平日は受託開発を行い、週末は自社サービスの開発に注力していました。
転機は、2006年に参加した危機管理産業展です。受託開発したセキュリティーシステムが展示されることになり、技術的な質問に回答するために当社の担当者がブースに待機し、私も見学に伺いました。 周りのブースでは、ガスマスクや防護服、土囊(のう)など展示されていましたが、当時は防災にまったく関心がなく、「なぜ、土が入っているだけの土嚢が展示されているのか」と、展示自体が意外だと感じました。ただ、いろいろな製品を見るうちに、防災にも市場があると気づきました。私の中で探していたニッチ市場として、防災とIT が結び付きました。
また、同じタイミングで、緊急地震速報の一般提供が2007年10月1日に始まり、民間企業でも自由参入できることを知りました。そこで、緊急地震速報を利用したシステムであればIT 企業でも防災市場に参入できるのではないかと、思いつきました。
ゆれくるコール開発秘話
――緊急地震速報システムの開発までの経緯を教えてください。
10月1日に合わせて提供できるよう、開発スケジュールを組みました。同じことを考える会社が何社あるかは不明でしたが、施行日に合わせてサービスを開始すれば、最初に始めたうちの1社になれるだろうと。そうした気持ちもあり、見切り発車で開発準備を進めました。そうして緊急地震速報のシステムを「ゆれくるコール」という製品名で提供を開始しました。
いざ施行日になってみると、想像以上に多くの企業が参入していて驚きました。提供開始直後には 気象業務法の改正案が出され、地震動の予報業務は許可制へ移行されることになりました。すでにサービスを始めていた会社は優先的に審査されると聞き、急いで認可を得る手続きを進めました。こうして、ゆれくるコールを継続して提供することができました。
ただし、防災市場へ参入はしたものの、私たちが開発した緊急地震速報システムを配信するためには、受信端末が必要でした。当社はIT 企業で、システム開発が専門です。端末を生産することもできず、設置するにも電気工事業者の手配が必要で、営業がなかなか進みませんでした。
――受信端末の問題をどのように乗り越えたのでしょうか?
ゆれくるコールを提供してからしばらく経ち、社員から「スマートフォンアプリを作りたい」と提案がありました。スマートフォンには、当社がハードウエアに求める通知の受信や音を鳴らす仕組みが備わっています。 そこからスマートフォンを受信端末にするアイディアが浮かびました。その後、早々にスマートフォン向け防災アプリの開発を検討し、すでに開発済みのゆれくるコールをアプリ化することに決めました。
当時は、スマートフォンで緊急地震速報を受信する発想自体が一般的ではありません。どのように設計したらビジネスモデルとして確立できるのかも未知数でしたが、「まずは開発してみよう」という心持ちで開発を進め、2010年にアプリ版の提供を開始しました。
――普及台数という観点では、当時はスマートフォンよりも携帯電話(ガラケー)の方が主流です。ガラケーでのシステム開発はあり得たのでしょうか?
ガラケーでのシステム開発は考えていましたが、金銭的な理由で参入するハードルが高く、諦めざるを得ませんでした。当時、NTTドコモの携帯向けインターネットサービス「iモード」を活用したサービスを開発するため、コンサルティング会社に相談したことがあります。しかし、システム開発に必要なコンサルティング費用が高額でした。今となっては、その費用が適切だったのか否か、実際に事実関係を裏取りしていないので定かではありません。一方で、Apple 社のアプリ開発用IDは安価で取得することが可能で、iPhone アプリ開発には実質的な制約がありませんでした。
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