「行動」にフォーカスしたマネジメント

私たちの提唱する「組織行動セーフティマネジメント」(BBS=Behavior Based Safety)は、行動分析学をベースとした、人間の行動原理に着目した行動科学に基づいたリスクマネジメントの手法です。危機管理のマネジメントがさかんなアメリカにおいて「成果を出す手法」として知られ、日本でも製造業、運輸業をはじめとして、規模の大小を問わず、数々の企業が導入しているほか、教育機関での実践事例も増加しています。

このマネジメント手法の特徴は、フォーカスすべきものを「行動」に限定している、ということ。職場で起こる事故につながる危険の芽を、スタッフ一人ひとりの行動の中に発見し、安全行動に変えていくということです。

多くの企業でよく見られる安全への取り組みとして、「安全意識を徹底させる」「(ミスのないように)作業に集中する」「一人ひとりが安全への自覚を持つ」といった、スタッフの〝内面〟にアプローチするものがありますが、組織行動セーフティマネジメントは、こうした内面へのアプローチを排除します。

意識の徹底、集中すること、自覚を持つことなどの曖昧なスローガンをいくら唱えても、それで人の内面を変えることは非常に困難だからです。安全意識とは何か? 何をもってそれが「徹底されている」と判断できるのか? (作業に)集中しているとは、どんな状態か? 自覚を持つとはどういうことか? 具体性のない呼びかけでは、人は「どうすればいいか」がわかりません。

職場で働く人々の価値観は十人十色であり、ましてや現在の日本のビジネス界は、人材不足からさまざまな価値観を持つ人材(外国人や各種の雇用形態)が同じフィールドでビジネスの時間を共有しているというのが現状です。こうした人材の一人ひとりの価値観を考慮し、それぞれに見合ったセーフティマネジメントを施すという時間や労力は、残念ながら今の私たちにはありません。

あいまいな方針だけでは行動を管理できない(イメージ:写真AC)

必要とされるのは、いつ、誰が、どこでやっても同じ結果が得られる科学的な再現性のあるマネジメント。一人ひとりの内面を変えようとするのではなく、人間の行動原理に基づき、スタッフの行動を変容させることで安全を確保するのが、組織行動セーフティマネジメントです。

つまり「(事故につながる)危険行動」を「安全行動」に変え、さらに習慣として定着させる。スタッフ一人ひとりから事故やミス、コンプライアンス違反につながる危険な行動が発生しない組織、すべてのスタッフが安全行動を起こしているという組織を作る。「組織に『安全習慣』という文化を構築」するわけです。

人が行動するメカニズム

ここで組織行動セーフティマネジメントが拠りどころとする、行動科学における人間の行動原理の「基本中の基本」ともいえるメカニズムについてお話ししましょう。

そもそも、人が行動を繰り返す、行動を定着させるのはなぜか? それは簡単にいえば、「自分の行動が自分に『望ましい結果』(メリット)をもたらす」からです。逆にいえば、行動の結果が望ましくない結果(デメリット)であれば、人は行動を繰り返さない、定着させないということでもあります。

行動科学では、こうした「人が行動するしくみ」を次のような「ABCモデル」と呼ばれる概念でまとめています。

A(Antecedent)先行条件……行動を起こすきっかけ。行動する直前の環境
B(Behavior)行動……行為、発言、ふるまい
C(Consequence)結果……行動によってもたらされるもの。行動した直後の環境変化


人が行動を起こすには、行動のための条件、つまり「なぜ行動を起こすのか」という理由があり、その条件を満たすために「行動」を起こし、行動の後には「結果」が生まれ、その「結果」がまた次の行動を促す(あるいは促さない)のです。