2018/10/29
講演録

リスク対策.comは23日、「新・帰宅困難者対策 本当に社員の帰宅を抑制できますか!?」と題した講演会を東京都千代田区の全国町村会館で開催。東京都総務局総合防災部防災管理課統括課長代理である澤田徹氏が「帰宅困難者対策の東京都の取り組み」と題し、新たに始めた「東京都一斉帰宅抑制推進企業認定制度」などについて説明した。
澤田氏は2011年の東日本大震災で、都内において約352万人の帰宅困難者が発生したことを説明。首都直下地震が発生した場合、例えば千代田区丸の内から埼玉県和光市までの21kmは通常なら5時間で歩けるが、発災後はm2あたり6人もいる満員電車のような密集状態を歩かねばならず、15時間はかかると紹介。帰宅は現実的ではないほか、発災後72時間は人命救助最優先で緊急車両が走るために、道路をふさいだりすることのないよう、移動せず職場などにとどまるよう呼びかけた。
そして事業者に対し一斉帰宅の抑制や安否確認手段の周知を責務とした、東京都帰宅困難者対策条例を紹介。「ハンドブックやリーフレットで周知を呼びかけている」としたが、認知度は全体で46.2%、特に20代女性で29.7%、同じく男性で33.3%と若年層で低いほか、中小企業でも知られていない傾向にあると分析した。従業員の帰宅を抑制するための事業者の備蓄は、2017年の東京商工会議所の調査で3日分以上の飲料水を備蓄している事業者は50.1%、同じく食料は46.2%にとどまっている。
澤田氏は事業者に対し、従業員の一斉帰宅の抑制のため、「3日分の備蓄に加え、来社中の顧客や取引先の分も考慮し、10%程度余分に用意してほしい」と説明。さらに「事業者と従業員間のみでなく、従業員が安心して職場で一時滞在できるよう、家族との安否確認手段の周知も行ってほしい」と呼びかけた。
今年度の新規事業であり、31日まで応募企業を募集している「東京都一斉帰宅抑制推進企業認定制度」について、水9Lと食料9食分といった3日分の備蓄、安否確認手段と安全な場所にとどまることの従業員への周知、従業員および施設などの安全確保に加え、さらにひと工夫加えた取り組みを行っている企業を「一斉帰宅抑制推進企業」として認定する旨を澤田氏は説明。「2017年の対策検討会議を経て導入を決めた。中小企業は特に取り組みに後ろ向きになりがち。先進的な事例集作りたい」と述べた。
工夫例としては備蓄スペース不足解消のため、従業員の机の下に備蓄を分散する、近隣の事業者や取引先と備蓄品の融通や従業員受け入れで協力するなどを挙げた。認定されると認定マーク交付や都のホームページに社名や取り組みを紹介する。特に優れた取り組みを行っている企業は、モデル企業として、認定式で認定証を交付し楯も授与する予定。
■制度の詳細はこちら
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/bousai/1000019/1005811/1005948.html
(了)
リスク対策.com:斯波 祐介
- keyword
- 東京都
- 帰宅困難者
- 備蓄
- 東京都一斉帰宅抑制推進備蓄制度
講演録の他の記事
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方