防毒防煙マスクの例(画像提供:熊谷氏)

有毒ガスを回避する備えとは?

こうした恐ろしい有毒ガスから回避する方法はあるのでしょうか。
ある程度の対処方法としては防毒・防煙マスクがあります。ただしこのマスクのもつ性能によって、対応できる火災現場が限られます。十分な性能を持つマスクが求められます。

例えば、一軒家の1階で火災が発生して2階の寝室で寝ている状況を見てみましょう。1階で発生した火災は徐々に炎が大きくなり、煙が充満して濃い黒色の煙がたまってきます。室内がある程度密封していると不完全燃焼状態となり、有毒ガスを含む黒煙が急激に増加します。この相乗作用で1階の火災室内は酸素が急減に消費され酸欠状態となります、これを「外気酸欠」と呼びます。この状態になりますと人はほぼ仮死状態になります。

2階寝室をみてみましょう。1階で発生した大量の煙が、ドアの隙間などを通過して階段室を上昇し、さらに寝室のドアの隙間から寝室へ侵入します。この時黒煙の煤はまだ浸入できるほどの量及び圧力に達していませんが、大量に発生した一酸化炭素はドアの隙間から寝室へ侵入します。寝ている人は臭いも無い一酸化炭素を吸い続けて中毒症状となります。気が付いた時には体が麻痺して自由に動けません。

その後に黒煙も隙間から入り始めます。この時の寝室内にはまだ十分に酸素があるのですが、一酸化炭素の影響で体内に酸素が取り入れられなくなり、結果、酸欠を起こします。これが「体内酸欠」です。
 
同じ酸欠状態でも、「外気酸欠」か「体内酸欠」かによって対処方法が変わります。大気中の酸素濃度は約21%。これに対し人体に有害な一酸化炭素濃度は0.05%(500ppm)以上とされています。火災で一酸化炭素が流入充満したとしても、火点近くならまだしも、室内全体の酸素濃度が急激に下がることはありません。火災の室内でも、酸素20%、一酸化炭素0.2%(2000ppm)なんて濃度があり得ます。

こうした室内の酸素濃度が十分ある場合であれば、「体内酸欠」に集中して対処すればよいことになります。一酸化炭素は物理的なフィルターで捕捉できませんし、活性炭のような吸着剤でも除去できません。一酸化炭素を除毒する防毒・防煙マスクを着用していれば十分な呼吸を確保できます。「外気酸欠」の場合は、防毒防煙マスクでも対処できないため、空気呼吸器(自給式)をするしかありません。

ここで「除毒」について。一酸化炭素を除毒するには、マスクに触媒の機構が求められます。最近防煙マスクあるいは防煙フードと称して販売している商品をみると、このフィルターではまず除毒できない、と玄人には見た目で判断つきます。そういう場合は、取説注意書を確認すると、大抵とても小さな文字で「一酸化炭素ガスは除去できません」と書いてあります。

フィルター部分は活性炭をまぶしたフィルターで、さもいろいろな有毒ガスが除去できるような表示でした。煤や塵など粒子の除去は可能でしょうが、それは数百円程度のN95マスクでも十分に除去できますから、8000円前後で販売しているこの商品はいったい何だ!と思います。一酸化炭素も除去できないマスクに防煙マスクを名乗る資格無し!!です。皆さんも購入するときは十分に気を付けましょうね。
   
火災現場で短時間に人の命を奪う、一酸化炭素の恐ろしさについて、実は先日某テレビ局の企画で実験に参加し、実体験をさせていただきました。(またまた、死にそうでした)。詳細は来年1月5日(予定)の放送後に解説します。すごいですよ!

その他、一酸化炭素のほかにも、有毒ガスがたくさんありましたね。これ以降は次回解説いたします。乞うご期待ください!

【参考】
「BCPのSOS」
第三者の目線でBCP診断をする「セカンドオピニオンサービス」
http://bcpsos.rescueplus.jp/

(了)