2018/12/18
防災オヤジーズくま隊長の「知らないとキケンな知識」
「煙が黄色くなると死を招く」
身のまわりを見渡すと、木、繊維、ウレタン、ケーブル、油など、燃える素材があることに気づきます。ほとんどの素材は、本来きちんと高温で燃焼させれば、それほど多くの有毒ガスは発生しません(完全燃焼)。ですが火災現場の場合、燃焼温度や酸素濃度などいろんな条件が組み合わさることで、非常に多種の有毒性ガスが発生します(不完全燃焼)。これが厄介なのです。
たいてい低温250℃前後から徐々に500~600℃位までの温度で不完全燃焼を持続させます。特に500℃前後が最も有毒ガスが多種発生します。
建物火災の発生から鎮火までの煙の推移を見てみましょう。
何かに着火し、火災発生すると、白い煙がゆらゆらと漂い始めます。その後白煙の勢いが強くなり、徐々に灰色に近い濃い煙の色に変わっていきます。その後黄色みがかった煙が発生し、最後は色の濃い黒煙になります。この黒煙になる直前の黄色い煙が、とても毒性が強いガスを含んだ煙と考えられます。リンゴは尻が黄色くなると熟して旨いが、煙が黄色くなると死を招くのです。
さらに黒煙の濃さが増し、室内温度が発火点に達すると、天井付近に溜まった可燃性有毒ガスに引火し、波のように炎が広がります。フラッシュオーバーと呼ばれる現象です。
また、密閉された室内で不完全燃焼が続いた場合、室内の酸素濃度が低下した状態となり炎の勢いは弱まるのですが、大量の煙とガスは溜まっていきますので、この時に扉を開けたり窓ガラスが割れるなどして外の酸素が一気に室内へ供給されると、爆発燃焼が起こります。この現象はバックドラフトと呼ばれます。
(出典:keibou aichiさん YouTube投稿)
7月に発生した多摩のデータセンター建設現場火災事故では、作業員ら40人が負傷し、5人が亡くなりました。現場でも、白い煙が黄色く変化した直後に被害が拡大した、との証言があるようです。発火原因である可燃性のウレタンが、建物内で不完全燃焼が広がり、毒性の強いガス(黄色)が充満したのではないでしょうか。5人の方の死因はこの有毒ガスの吸引にあると推察されます。
■黒煙逃れた作業員「死を覚悟した」 多摩の建築現場火災
https://www.asahi.com/articles/ASL7V5JB0L7VUTIL04W.html
(出典:朝日新聞デジタル 2018年7月26日)
この有毒ガスはガスですので、目に見えないばかりか、フィルターマスク(N95等)でも阻止することはできません。こうした有毒ガスから呼吸を保護する方法は2通りあります。
1つ目は、有毒ガスを含む外気を遮断して綺麗な空気を供給させる方法(空気呼吸器等)です。2つ目は、吸着剤や触媒などの薬剤を通過させて呼吸を行うことで、有毒ガスを除去したり、反応により除毒して吸入する方法(濾過式マスク等)です。前記を自給式、後者を濾過式と称します。
自給式、濾過式はそれぞれメリット・デメリットがありますので、次回以降で解説いたします。
防災オヤジーズくま隊長の「知らないとキケンな知識」の他の記事
- 第7回 相次ぐ建設現場における火災
- 第6回 なぜ戸建住宅火災で死亡するのか
- 第5回 火災による死亡原因のほとんどは「煙」にあった
- 第4回 知ってましたか?消火栓は誰でも使えます!
- 第3回 消火器で火災は消せません!
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方