「煙が黄色くなると死を招く」 

身のまわりを見渡すと、木、繊維、ウレタン、ケーブル、油など、燃える素材があることに気づきます。ほとんどの素材は、本来きちんと高温で燃焼させれば、それほど多くの有毒ガスは発生しません(完全燃焼)。ですが火災現場の場合、燃焼温度や酸素濃度などいろんな条件が組み合わさることで、非常に多種の有毒性ガスが発生します(不完全燃焼)。これが厄介なのです。

たいてい低温250℃前後から徐々に500~600℃位までの温度で不完全燃焼を持続させます。特に500℃前後が最も有毒ガスが多種発生します。

建物火災の発生から鎮火までの煙の推移を見てみましょう。
何かに着火し、火災発生すると、白い煙がゆらゆらと漂い始めます。その後白煙の勢いが強くなり、徐々に灰色に近い濃い煙の色に変わっていきます。その後黄色みがかった煙が発生し、最後は色の濃い黒煙になります。この黒煙になる直前の黄色い煙が、とても毒性が強いガスを含んだ煙と考えられます。リンゴは尻が黄色くなると熟して旨いが、煙が黄色くなると死を招くのです。

火災現場で最も毒性が強い黄色い煙。岡山県瀬戸内市消防本部消防署による火災燃焼実験にて(画像提供:岡山県瀬戸内市)

さらに黒煙の濃さが増し、室内温度が発火点に達すると、天井付近に溜まった可燃性有毒ガスに引火し、波のように炎が広がります。フラッシュオーバーと呼ばれる現象です。

また、密閉された室内で不完全燃焼が続いた場合、室内の酸素濃度が低下した状態となり炎の勢いは弱まるのですが、大量の煙とガスは溜まっていきますので、この時に扉を開けたり窓ガラスが割れるなどして外の酸素が一気に室内へ供給されると、爆発燃焼が起こります。この現象はバックドラフトと呼ばれます。

 (出典:keibou aichiさん YouTube投稿)

7月に発生した多摩のデータセンター建設現場火災事故では、作業員ら40人が負傷し、5人が亡くなりました。現場でも、白い煙が黄色く変化した直後に被害が拡大した、との証言があるようです。発火原因である可燃性のウレタンが、建物内で不完全燃焼が広がり、毒性の強いガス(黄色)が充満したのではないでしょうか。5人の方の死因はこの有毒ガスの吸引にあると推察されます

■黒煙逃れた作業員「死を覚悟した」 多摩の建築現場火災
 https://www.asahi.com/articles/ASL7V5JB0L7VUTIL04W.html
(出典:朝日新聞デジタル 2018年7月26日)

この有毒ガスはガスですので、目に見えないばかりか、フィルターマスク(N95等)でも阻止することはできません。こうした有毒ガスから呼吸を保護する方法は2通りあります。

1つ目は、有毒ガスを含む外気を遮断して綺麗な空気を供給させる方法(空気呼吸器等)です。2つ目は、吸着剤や触媒などの薬剤を通過させて呼吸を行うことで、有毒ガスを除去したり、反応により除毒して吸入する方法(濾過式マスク等)です。前記を自給式、後者を濾過式と称します。

自給式、濾過式はそれぞれメリット・デメリットがありますので、次回以降で解説いたします。