体験でわかる、有毒ガスの恐ろしさ

煙の中でも、黄色い煙を発する有毒ガスが危険であることがわかってきました。
火災現場でどんな有毒ガスが発生するのでしょうか。主には以下のようなものがあります。

一般火災時に発生する主な有毒ガスの例(図表提供:熊谷氏)


これらのうち最も代表的な有毒ガスが、一酸化炭素(COガス)です。何が燃えても発生するため、発生量も圧倒的に多いのが特長です。

今でも時々、一酸化炭素中毒死がニュースになっています。一昔前は石炭炭坑内事故がありました。いまでも車両内に練炭や排気ガスを入れた自殺・事件、瞬間湯沸かし器や石油ガスファンヒーターの不完全燃焼による中毒死などがよく知られています。

(出典:東京消防庁HP http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/topics/201411/co.html

それでは一酸化炭素中毒がどのように起こるか。経緯を時系列でみてみましょう。どうせシミュレーションだろ、と思ってはいませんか。実は幸か不幸か(不幸ですが)不肖・私熊谷と弊社社長の2名は、一酸化炭素中毒で死にかけた実体験があるのです。


いまから30数年前、とある工場内の製品実験室でのことでした。室内では防毒防煙マスクの評価実験をおこなうため、約3000ppm(0.3%)という高濃度の一酸化炭素をボンベから2㎥(1m×1m×2m)の大きな密閉容器(箱)に充填していました。この容器から一酸化炭素が漏れており、さらに実験室の換気が十分ではない状況でした(後でわかりました)。

3000ppmという一酸化炭素濃度は、約30~40分程度で死亡するくらいの高濃度です。実験を開始してから10分くらいでしょうか。まず、室内が少し暗くなってきたなと感じました。これは中毒の初期症状の「視野狭窄(しやきょうさく)」という症状です。たとえば普通なら両腕いっぱい180度に広げても、何となく左右の手のひらが見えます。視野狭窄を起こすとこの角度がどんどん狭くなり、90度くらいしか見えなくなっていたのです。

そして両手を箱の上に置いておいたのですが、右手を動かそうとしても自由に動かなくなりました。手を上に挙げようと力を入れても動かないのです。これはもしやと思い、「CO漏れてないか!!」、と声を出そうとしましたが唇がしびれ「ううう、やや、」とうまく発声できません。そればかりか、よだれ、鼻水、涙が垂れてきました。その時ちょうど外にいた作業員がドアを開けて新鮮な空気が一挙に入り、事無きに終わりました。

助かった直後はしばらく動けず、横になり休んでいますと、超強烈な2日酔いと酷似した症状に陥りました。結局その後3日ほど、頭痛・吐き気・めまいの状態が続き寝込みました。(諸般の事情で病院へは行けませんでした)

とりあえず何とか回復しましたが、これ以上の中毒症状になる場合は、高圧酸素療法などの高度な加療を必要とします。そのような中毒の体験を私の末弟が体験しておりますが、この体験談は2時間コースになりますので、またの機会に詳細はお話いたします(プレジャーボート内の発動発電機が原因でした)。

一酸化炭素の一番の怖さは、無色・無臭・無音であることです。火災時には、一酸化炭素の濃度が上がる室内で、知らずに寝ているうちに中毒となり、体が動かなくなり死に至る、あるいは動けなくて逃げられず火炎に焼かれて焼死する、という事故が日々起こっているわけです。