2016/11/22
誌面情報 vol28
三菱化学株式会社(本社、東京都港区)鹿島事業所では、東日本大震災で茨城県鹿島市と神栖市にまたがる鹿島コンビナート全体が機能不全に陥る中、備蓄による対応と、迅速な復旧により、顧客企業への影響を最小限にとどめた。
■爆発を防ぐ
鹿島コンビナートには、20社以上の化学品メーカーが工場を連ねる。三菱化学鹿島事業所は、同コンビナートで石油化学製品の基礎原料であるエチレンを生産し中核を担う。東日本大震災では、コンビナート付近一帯で震度6弱を観測し、いくつかの工場施設が倒壊したほか、コンビナート内の配管がいたる場所で変形するなど、コンビナート全体が機能不全に陥った。同社事業所は、大きな損傷こそなかったが、地震の強い衝撃により安全装置が作動したことで、石油化学プラントが自動停止した。事業所では、すぐに事業所長を本部長とした現地対策本部を立ち上げ、作業員が24時間体制で設備点検を実施した。本社で災害対策本部のリーダーを努めた同社技術部長の植田章夫氏は、「化学工場では、機械の保安が社員の安全に直結する。機械の安全確保がどれだけ早く行えるかが勝負となる」と話す。
最初の課題となったのは、火災や爆発を防ぐために必要な窒素の確保だ。鹿島コンビナートでは、電力や工業用水が停止し、窒素供給プラントが稼働できない状況なった。鹿島事業所では、緊急の対応策として保安用に備蓄していた液体窒素を使い、二次災害を防いだ。しかし、窒素の備蓄量には限りがあるため、コンビナート全体の安全確保のためには、窒素供給プラントの早期再開が急務となった。
幸いにも、電力会社により同日の夕方には、保安用電力の優先的な供給が再開された。また、工業用水についても、当初、供給再開に数十日かかると懸念されていたが、県の対応により3日間で復旧が実現し、震災から3日後の14日には、窒素供給プラントが再稼働した。
植田氏は「電力会社や行政側の理解、コンビナートの連携精神に助けられた」と話す。
誌面情報 vol28の他の記事
- サプライチェーンを守れ 鹿島コンビナート稼働への道のり
- 特別寄稿 福島一也氏
- 特別寄稿 石井 和氏 東日本大震災におけるBCP検証の手法
- 急拡大する中国の危機管理市場
- 危機管理担当者への提言
おすすめ記事
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/08/26
-
-
ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
突発的・局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ雷雨」は今シーズン、全国で約7万8000 回発生、8月中旬がピーク。民間気象会社のウェザーニューズが7月に発表した中期予想です。同社予報センターは今年も、専任チームを編成してゲリラ雷雨をリアルタイムに観測中。予測精度はいまどこまで来ているのかを聞きました。
2025/08/24
-
スギヨ、顧客の信頼を重視し代替生産せず
2024年1月に発生した能登半島地震により、大きな被害を受けた水産練製品メーカーの株式会社スギヨ(本社:石川県七尾市)。その再建を支えたのは、同社の商品を心から愛する消費者の存在だった。全国に複数の工場があり、多くの商品について代替生産に踏み切る一方、主力商品の1つ「ビタミンちくわ」に関しては「能登で生産している」という顧客の期待を重視し、あえて現地工場の再開を待つという異例の判断を下した。結果として、消費者からの強い支持を受け、ビタミンちくわは過去最高近い売り上げを記録している。一方、BCPでは大規模な地震などが想定されていないなどの課題も明らかになった。同社では今、BCPの立て直しを進めている。
2025/08/24
-
-
-
-
ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
「ゲリラ豪雨」は不確実性の高い気象現象の代表格。これを正確に捕捉しようという試みが現在、大阪・関西万博の会場で行われています。情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、大阪大学、防災科学技術研究所、Preferred Networks、エムティーアイの6者連携による実証実験。予測システムの仕組みと開発の経緯、実証実験の概要を聞きました。
2025/08/20
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方