2019/05/24
防災・危機管理ニュース

地震発生から10数分後には、どこでどの程度の建物が倒壊したか、どの程度の死傷者が出ている可能性があるかなど、建物や人の被害状況が即時に把握できるシステムが近く運用を開始する。これまで国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下、防災科研)が構築してきた「リアルタイム地震被害推定システム」から提供される推定情報を、今年の7月から、特定非営利活動法人のリアルタイム地震・防災情報利用協議会(REIC)が企業向けに配信する。
過去の阪神・淡路大震災や東日本大震災などの大規模災害では、被害状況の全体像を把握するまでに多大な時間がかかり、避難や救助支援など初動対応が遅れるといった課題があった。被害を早期に推定し、その情報を迅速に提供できるようにすることは、災害対応における迅速な意思決定につながる。
このため、防災科研では、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議が推進する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一環として、2014年度から5年間をかけて、被害状況をリアルタイムに推定するシステムの構築を進めてきた。システムには、防災科研、気象庁、地方自治体による膨大な地震観測データが活用されていて、さらに、被害推定するにあたり、全国を対象とした約5600万棟の建物分布モデルと、時間帯別人口分布モデルが、250メートルメッシュ(全国で約600万メッシュ)に組み込まれている。関東・東海地域においては、地盤の微動観測結果に基づいて構築した地下構造モデルも加え、より精度よく地震動を推定し、高精度な被害推定ができるという。現在、リアルタイム地震被害推定情報で取得できるデータは、地震動分布、建物被害、震度暴露人口、人的被害となっている。
第一号にパナソニックなど
2016年4月に発生した熊本地震では、4月14日に発生した前震で発災の約29秒後から被害推定情報を配信し、10 分程度で完了。4月16日の本震でも11分程度で被害推定を完了した。「算出した被害推定情報は、その後調査した実際の被害情報と比較しても多少の過大評価の傾向は見られたものの、ほぼ同様の状況であったことが実証されている」(防災科研ニュース No.201)。
7月からこの情報を配信するREICは、緊急地震速報に必要な情報を、さまざまな用途に応じた配信サービス事業者向けに提供しているNPO法人。今回のリアルタイム地震被害推定情報でも、防災科研からのデータを、企業が所有するさまざまなGISに落とし込むことが可能な情報を提供し、第一号にはパナソニックなどが利活用を予定している。実際には、震度3以上の地震が発生した際、利用者が、REICのクラウドサーバーにアクセスすると、各地の被害状況が見られる形を想定。配信事業と併行して、企業のニーズや課題を把握してユーザーのサポートや拡大を図る活動を行っていく。
- keyword
- REIC
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
被災時に役立ったのはBCPではなく安全確保や備蓄
今号から、何回かに分け、内閣府「令和3年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」の結果を解説するとともに、防災・BCPの課題を明らかにしていきたい。第2回は、被害を受けた際に有効であった取り組みについて
2022/05/19
-
最後に駆け込める場所をまちの至るところに
建築・不動産の小野田産業は地震や津波、洪水、噴火などの自然災害から命を守る防災シェルターを開発、普及に向けて取り組んでいます。軽くて水に浮くという特色から、特に津波避難用での引き合いが増加中。噴火用途についても、今夏には噴石に対する要求基準をクリアする考えです。小野田良作社長に開発の経緯と思いを聞きました。
2022/05/18
-
新しいISO規格:ISO31030:2021(トラベルリスクマネジメント)解説セミナー
国際標準化機構(ISO)は2021年9月、組織向けの渡航リスク管理の指針となる「ISO31030:2021トラベルリスクマネジメント」を発行しました。企業がどのようにして渡航リスク管理をおこなったらよいか、そのポイントがまとめられています。同規格の作成にあたって医療・セキュリティの面から専門的な知識を提供したインターナショナルSOS社の専門家を講師に招き、ISO31030:2021に具体的に何が書かれているのか、また組織はどのようなポイントに留意して渡航リスク管理対策を講じていく必要があるのかなど、具体例も交えながら解説していただきました。2022年5月17日開催
2022/05/18
-
BCPは災害で役に立たない?
今号から、何回かに分け、内閣府「令和3年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」の結果を解説するとともに、防災・BCPの課題を明らかにしていきたい。第1回は、BCPの見直し頻度と過去の災害における役立ち度合いについて取り上げる。
2022/05/18
-
政府調査 BCP策定率頭打ち
内閣府は5月18日、令和3年度における「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」についての結果を発表した。それによると、大企業のBCPの策定状況は、策定済みが前回の令和頑年度から2.4%伸び70.8%に。逆に策定中は0.7%減り14.3%で、策定済と策定中を合わせた割合は前回とほぼ同じ85.1%となった。政府では2020年までに大企業でのBCP策定率について100%を目標としてきたが頭打ち状態となっている。中堅企業は、策定済みが40.2%(前回34.4%)、策定中が11.7%(前回18.5)%で、策定と策定中を足した割合は前回を下回った。
2022/05/18
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2022/05/17
-
-
-
SDGsとBCP/BCMを一体的にまわす手法~社員が創り出す企業のみらい~
持続可能な会社の実現に向けて取り組むべきことをSDGsにもとづいてバックキャスティングし、BCP/BCMを紐づけて一体的に推進する、総合印刷サービスを手がける株式会社マルワ。その取り組みを同社の鳥原久資社長に紹介していただきました。2022年5月10日開催。
2022/05/12
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方