2019/06/17
地域と企業のBCP
危険物施設はあまり認識されていない?
この街歩きや防災マップづくりは、前回の連載で取り上げた地区防災計画の入り口としてとても有効ですが、マップの作成過程で危険物施設に起因する不安は意外と話題に上がりません。
昨年のアルミ工場の爆発事故以降、防災活動が大変盛んで全国に好事例として知られている地域の方に、地域内の危険物施設についてどう思うかお聞きしましたが、「そういう施設があることは分かっていたが、災害時の事故については考えたことがなかった」「これまで15年活動してきたが、ようやく気になるといった声が出始めてきたところ」といった返答でした。
地域の危険物施設に関する情報は所轄の消防署が有していますが、残念ながら誰でもネット検索で分かるようなオープンな状況にはなっていません。
ただし、有害性のある多種多様な化学物質が、どのような発生源から、どれくらい環境中に排出されたか、あるいは廃棄物に含まれて事業所の外に運び出されたかというデータを把握し、集計し、公表する仕組みはあります。
PRTR(Pollutant Release and Transfer Register:化学物質排出移動量届出制度)と呼ばれるもので、地図で身近な事業所を検索できるので、ぜひ使ってみてください。
http://www2.env.go.jp/chemi/prtr/prtrmap/
放射線障害防止法の対象事業所一覧も参考になります。毎年公表されているものですが、身近の研究施設などでもこうした物質を持っている知識は備えておくとよいかもしれません。
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/anzenkakuho/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/08/08/1261261_12_1.pdf
災害が発生して初めて被害と向き合うことに
危険物施設=「きけん」というわけではなく、きちんと法律に基づき管理され、対策が施されている施設ですから通常の状態では何の問題もないでしょう。逆に危険物とは、すなわち資源を扱っている施設ですから大変重要な産業の担い手企業です。
一方で、こうした存在は外からは意外と注視されず、災害が発生して初めて私たちは被害と向き合うことになります。
昨今の気候変動と南海トラフ地震や首都直下地震などの巨大地震発生の切迫性から、今後ますます災害は頻度高く発生することが懸念されています。
危険物施設を管理している企業も、危険物を漏洩させない対策はもちろんのこと、自然災害で自社が被害を受けた場合に地域に与える影響と二次被害を軽減させるための対応策について少なくとも事前に考えておく必要があるといえるでしょう。
地域にある企業と共存して暮らしている私たちは、もっと地域の資源に目を向け、さまざまな角度から地域を見つめ直し、いつもの時ともしもの時の対応策を柔軟な発想で他人任せにせず、多様な方々と共に考える関係性づくりが必要であると考えています。
(了)
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