ハラスメント防止のしおりも有効

読者の皆さんならもうお分かりの通り、この部長の行動は明らかなパワハラです。しかし、被害者が匿名で訴えてきた場合、企業はどのように対応すればよいでしょう。

多くの企業で、事案解決の手順としてやってしまいがちなのが「事実確認を先にする」です。事実確認は、ハラスメント事案解決に必要な一つのステップではありますが、最初にすることではありません。特に被害者が匿名の場合、最悪、冤罪(えんざい)の可能性もあります。ですからこの場合、総務部長がアタリを付けた部署にそれとなく聞き込みを行う、などという行為は炎上の可能性もあり、厳禁です。

では、どうしたらよいのでしょうか。まず、被害者が匿名の場合は、全体に向けた注意喚起が必要です。今回のケースでは、申し出があったことも伏せて、早急にハラスメント防止研修を実施します。

また、この事例では、相談窓口が設置されていたにもかかわらず有効活用されず、いきなり社長への手紙という形になってしまいました。これは従業員が相談窓口の運営状況を正しく理解していないことの表れです。被害者は「相談したら自分はどうなるのか、報復されるのでは?」という懸念から、このような行動に出たもの考えられます。もし総務部が(1)相談窓口では、誰が担当するのか(2)相談した人の立場はどうなるのか(3)守秘義務について(4)報復行為には厳罰、などの社内ルールを全従業員に明示していたならば、正しく相談窓口が利用されたと考えられます。

苦情・相談先を明記した「ハラスメント防止のしおり」などを作成し、上記の内容も付け加えて、全従業員に配布するとよいでしょう。

(了)