2カ月以上が経った6月末も、被災地の姿はほとんど変 わっていない

1. 日々の備え
熊本地震における企業対応は、しっかりと災害に備えて準備をしてきたか否かで明確に結果が分かれた。繰り返し訓練をしてきた企業は、BCPで定めた「目標復旧時間」より早く事業を再開させるなど見事な対応を見せた。今回の事例から学ぶべき最も大きな点は「日々の備え」の重要さであろう。
 

2. 避難場所、対策本部の設置場所
一方で、検証しなくてはいけないこともある。例えば災害対策本部の設置場所だ。今回の熊本地震では、耐震を満たしていても、天井や壁が崩壊したり、オフィス家具類が散乱するなどして、一時的に施設は使えなくなった。社員をどこに避難させるのか、対策本部が使えなくなったときどうするのか、これは東京など都市圏においても考えておく必要がある。
 

3. 安否確認
基本的な点を言えば安否確認も見直す必要があるのではないか。今回の地震では、余震が多かったことからその都度、安否確認システムが自動発動し、どの時点での安否集計かわからなくなったという組織もあった。その点、イオンは独自のシステムで、どのタイミングでどのエリアを対象にするかを現地と本社の対策本部が意思決定して配信する方法で、スムーズに安否確認ができた。
 

4. 事業を停止する
事業を継続するだけでなく、「停止させる」という判断が重要になることも今回の取材で改めて教えられた。

富士フイルム九州では、前震で工場のラインが自動停止しなかったにもかかわらず、余震も続いたことから、「もしもの一手」として止める判断をした。そのことが本震の被害を軽減することにつながった。ITセキュリティに置き換えるなら、サイバー攻撃を受けた、あるいは、不審メールを社員が開いてしまった際、システムを止めるのか、動かし続けるのかという判断が迫られる。何を優先させるのか判断基準を明確にしなくてはいけない。

アメリカの災害対応では、LIPという言葉が使われている。(自らの)命を守る(Life safety)、二次災害を食い止める(Incident stabilization)、財産を保全する(Property conservation)の順番を示したものだが、二次災害を防ぐことを怠り、売り上げの損失を恐れ、工場を停止することを躊躇してしまうケースがBCPでは起こり得る。継続させることだけがBCPではない。熊本市内の工務店のアネシスと新産住拓が当初社員を屋根に登らせなかったこともLIPに基づく好判断だ。
 

5. 先手を取る
災害時に「もしかしたら」と考えることは、先手を打てるか、後手になるかの明暗を分ける。富士フイルム本社は、前震の時点で、現地が大きく被災していないことを確認したにもかかわらず「もしかしたら社員の家族や地域の人が被災しているかもしれない」と翌日に食料を現地に向けて発送し、そのことで本震の直後に現地に食料が届くというスーパープレーを実現した。また、もしかしたら工場に被害が出ているかもしれないとゼネコンに連絡したことで、本震の直後に専門家が来て建物を診断してくれるという信じられない早さの連携を実現した。

また、新産住拓が、東日本大震災で生じた問題点などを参考にして、職人を確保するために特別手当を出したり、賃金を上げたり、県外からの応援のためにホテルやアパートを確保するなど、先手の対応を打ったことにも驚かされる。1つ1つの災害をしっかり検証することが、次の災害対応を早めることにつながるということだろう。
 

6. 資源の確保
少しきつめの話になってしまうが、災害時は資源の取り合いが生じる。当然ゼネコンや建設会社の仕事が増える。ということは、それだけ仕事を依頼しにくくなるということである。いかに早く、ゼネコンや建設会社を押さえられるかで自社の復旧の早さも変わってくる。各社ともBCPの中で、ゼネコンなどとの連携は強化しているだろうが、建物だけでなく設備やITシステムについても早期に復旧できるよう応援資源を迅速に得られる体制を構築しておかねばならない。

もう1つ、限られた人数で多くの作業に対応するには、一人ひとりの多能工化という手法がある。工務店のアネシスが、日常的には工具も持たない社員にも、水道管の簡易修理などができるよう講習を開いて現場に向かわせたことは他の業種でも学べる点ではないか。同社が平時から、全社員による顧客の定期訪問をしていることで、このような多能工化が可能になったことは本文で紹介した通りだが、やはり平時からの取り組みがいかに重要かということだ。