2019/09/25
企業をむしばむリスクとその対策
□解説:SNSの書き込みは簡単に特定される
SNSは気軽に情報発信・情報共有ができるツールのため、現在多くの人が利用しています。一方、その利便性と引き換えに、従業員のプライベートなSNS利用に端を発した炎上トラブルに巻き込まれてしまう企業が少なくありません。
不適切な投稿を行い、炎上に至ると、投稿した本人を特定してやろうという動きがネット上で始まります。ネット上には「特定班」と呼ばれる人たちが存在します。彼らは、何か起こった際にネットのさまざまな情報から当時者を特定することを趣味とするネット住民であり、その調査能力はプロの探偵でも舌を巻くともいわれています。「特定班」と呼ばれているものの、特別な能力を持っている人たちではなく、ごく「普通の人」たちなのですが、恐ろしいのは、その数が年々増加傾向にあることです。全国に存在する特定班の「数の力」で、本人特定作業が進んでいくのです。
以下は、本人特定作業の一例です。
・ネット上に「魚拓」を取る
「魚拓」…当事者がアカウントを消したときに備えて証拠のツイートなどを保全しておくサイト。
・SNSの過去ログ(以前の投稿内容)を調査
・証拠保全しながらログをたどり、過去の書き込みから当事者のさまざまな情報を収集
・ 収集した情報を元に他のSNSのアカウントを特定し、さらに情報を収集
この調査の進行具合は、常に「2ちゃんねる」などの関連スレッドにアップされ、多くの特定班が情報共有しながら調べを進めていきます。全国に散らばる多数の特定班の「人海戦術」によって作業が行われていきますが、作業中に「これは専門分野だ」「ここは土地勘がある」といった「集合知」も加わり、猛烈な勢いで個人が特定されていくのです。事例にあるAさんの情報が特定されていく様子を時系列で見ると、以下のようになります。
【図1】本人特定までの時系列
その他の炎上した事例では、投稿者の勤務先名や住所、本人のみならず家族の写真やその勤務先、学校などを特定されてしまったケースもあります。
投稿者の勤務先名として名前の挙がった企業は、ブランドイメージや信用の低下、風評による売り上げの減少、場合によっては損害賠償等の支払いといった影響は避けられません。
□対策のポイント:従業員主体で考えさせる
現在、多くの企業でSNSに関わるリスクを従業員教育の題材に加えていることと思います。
もし従業員の一人が「誰かの名誉を傷つけるような発言を投稿する」「社会人として信頼を損なうような行為を投稿する」などして、そのことが公になった場合、炎上を招いたのが従業員個人であっても、彼らを教育・監督する立場にある企業がその責任を問われ、信頼を失墜してしまうのは多くの事例からも明らかであり、その結果として企業が被る損失や影響も大きなものになります。
そのため、企業としては「たとえプライベートの利用であったとしても、節度を持った投稿を心掛ける」「業務上知り得た情報はどんな内容であっても投稿してはならない」といった教育は十分に行う必要があります。また、過去に起きた事例を数多く説明し、危険な投稿とはどういったものか、を理解させることも重要です。
しかし、それ以上にSNSに関わるリスク教育の大切なポイントは「会社主体ではなく、従業員主体で考えさせる」という視点を加えることです。企業に損害が出る説明をするよりも、本人にどのような影響が起こるのかを説明した方が従業員の理解は進みます(いわゆる「ホラーストーリー」による教育)。上記の事例は8年以上前に実際に起きた有名なツイッターの炎上例ですが、投稿したAさんの情報はいまだにネット上で閲覧可能な状態にあります。過去の炎上の痕跡と一度特定された個人情報は半永久的にネット上に残り続けるのです。それによって自分自身はもちろん、家族も含めた複数の人たちが、長い間にわたり深く傷つき続けていくのです。
また、最近のSNSは、文章(テキスト)による投稿より、写真・動画による投稿が主流になりつつあります。写真や動画には、本人特定につながる情報がふんだんに盛り込まれることが多いため、「何が映り込んでいたら自分の本名や勤務先、住所、家族(勤務先や学校を含む)などの特定につながるか?」「(場所であれば)その写真や動画は、どこに居るのかが特定されてもいい所での投稿か?」という観点からの教育も行っていかなければならないでしょう。
今回のリスク:主に管理職・一般社員の内部リスク

(了)
企業をむしばむリスクとその対策の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方