2019/10/08
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
今後はAI活用か
図1の回答は「既に使っている(Already in use)」から「自分の組織では広く使われることはない(This will never be widely used in my organiation)」までの5段階となっており、「既に使っている」という回答が多い順に並べられているが、この中では「人工知能(Artificial Intelligence)」に対する回答が、既に使われている割合が比較的少ない割には、導入されると思われる時期が他の選択肢に比べて広く分散していることが注目に値するであろう。これは恐らく「人工知能」という概念が幅広く、様々なレベルのテクノロジーが含まれうるため、回答者の中でも認識や予想が大きくバラついているものと思われる。
また図2は「BCP を作成する際に組織にとって最も役立つものは何か?」という、恐らく回答者の多くにとって実務的な課題に関する回答結果である(上位3 つまで選択するようになっている)。ここでは「災害のモデリング(Disaster modelling)」と「復旧サービスの自動テスト・修正(Automatic testing and adjusting of recovery services)」がほぼ同率首位であり、これらに「資産管理(Asset tracking)」と「予測解析(Predictive analyses)」とが続いている。また「人工知能によるサプライヤーとの契約レビュー(AI reviewing supplier contracts)」が5位に入っているのも興味深い。
これらがどの程度実現可能なのかは分からないが、これらが恐らく多くのBCM関係者にとって悩みの種であり、何とかテクノロジーの力で解決したいと思われていることは間違いないであろう。特に「資産管理」や「サプライヤーとの契約のレビュー」については、組織の規模が大きくなるほど対象の数が増えていくため、ITで効率化させる余地が大きいと考えられているのではないだろうか。
一方で図3は、緊急事態における意思決定を、人間による入力を伴わず人工知能に委ねることの是非についての回答結果である。「人工知能が最終判断をすることに全く賛成である」という回答は4%にとどまっており、「賛成だが意思決定の結果は直ちに人間に共有されレビューされるべきだ」という慎重派と、「人間が関与せずに最終的な意思決定を行うことに反対である」という意見とが拮抗している。
しかしながら「現時点では反対だが、人工知能が将来より発達すれば賛成できるかもしれない」という回答も2割程度あるので、将来的には人工知能に意思決定を任せるというアプローチがより広く受け入れられるようになる可能性がある。
本報告書はクラウドベースのBCMソフトウェアを提供しているFusion Risk Management社の協力で行われていることもあり、BCMとテクノロジーとの関わりに関する様々な観点からの調査結果や考察が含まれている。日本でも近年、災害対応やBCMに関するITの導入が進みつつあり、このような報告書から得られる視点やヒントも多いのではないかと思われる。
■ 報告書本文の入手先(PDF52ページ/約2.2MB)
https://www.thebci.org/resource/bci-disruptive-technologies-report-2019.html
注1) BCM や防災などの分野では、「disruption」や「disruptive」という用語は主にネガティブな意味で「途絶」「破壊」「混乱」などを表すが、ここでは既存の秩序や構造を破壊して、より好ましい方向の変化をもたらすというポジティブな意味で用いられる。
注2) BCIとは The Business Continuity Institute の略で、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体。1994年に設立され、イギリスを本拠地として、世界100カ国以上に9000名以上の会員を擁する。http://www.thebci.org/
(了)
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