2026/02/05
危機管理の伴走者たち
トップインタビュー
安全サポート代表取締役 有坂錬成氏
-Profile-
【ありさか・れんせい】
1954年生まれ、東京都出身。幼少期、海外駐在員の家族としてドイツでの生活を経験。1977年学習院大学経済学部卒、同年住友海上火災保険(現三井住友海上)入社。89年独デュッセルドルフに赴任、その後ミュンヘン事務所長に就任し95年帰国。99年外務省に出向し、現在の「海外安全ホームページ」の立ち上げに携わる。2005年安全サポート設立、代表取締役に就任。
海外に社員を送り出す企業にとって、緊急事態が発生した際の対応体制は必須条件。海外ではどんなに現地に慣れたベテランでも、自分の身を守り切れない事態が起き得るからだ。ましてや現在は国家間のパワーバランスが変わり、安全保障上の対立が顕在化。東アジアの緊張も高まっている。海外危機管理サービスを手がける安全サポート(東京都港区)の有坂錬成代表取締役に、海外進出企業が取り組むべき対策を聞いた。
※本記事は「月刊BCPリーダーズvol.69(2025年12月号)」に掲載されたものです。
――地政学リスクへの注目から、企業の危機管理として海外安全対策への関心が高まっています。従業員を海外に送り出す際のリスクは何でしょうか?
端的にいえば、海外はアウェイだということです。一つは、やはり情報が入ってこない。日本であれば積極的に取りにいかなくてもニュースが自然に入ってきますが、海外では、言葉の問題もあり、普通にしていたら情報が薄くなります。
また、やはり言葉の問題や文化の違いから、トラブル対応力が著しく低下する。日本では自力で何とかできるトラブルも、海外では大事になり得ます。要するに、サバイバル力が大幅に下がる。ひとたび大きな事故や災害に巻き込まれたら、相当現地に慣れたベテランでも、その土地で生まれ育った人と同じようにはサバイバルできないでしょう。
いざというとき自力でサバイバルできないリスクを、駐在員が自ら会社に申告することはまずありません。ゆえに会社が考慮しないといけないわけですが、駐在員は普段は自在に動きまわってビジネスをこなし、かつ日常レベルのトラブルには対処していますから、大丈夫だろうと錯覚してしまうのです。
彼らが自由に動きまわって日常のトラブルに対処できるのは、多分に現地のスタッフや取引先の協力があるからです。そのサポートがなくなったとき、同じようにできるかというと極めて怪しい。それでいて、自力でサバイバルせざるを得ないようなシチュエーションにならないとは誰にもいえないわけです。
そのため駐在員がどう考えようと、彼らを守る体制と仕組みは会社として不可欠。アウェイの地へ送り出すのに「自分の身は自分で守って」というのではあまりに無責任です。
サバイバルに直面する事態を招かない
――雨が降るというのに傘を持たせないようなものですか?
雨が降るか降らないかはわからないし、むしろ、降らないことも多いでしょう。だから駐在員も「傘がほしい」とはいい出さないし、会社も気がつかない。しかし、やはり傘は持たせてあげないといけないわけです。
実はそこに、我々のサービスの要諦があります。といっても、駐在員に仰々しい傘を持たせるのではなく、見えない傘をさりげなく持たせる。つまり、専門的な知見をもって海外勤務にあたっての予防と準備を行う。サバイバルに直面するような緊急事態がなるべく起きないようにするとともに、もしそうした状況に陥っても命を救える体制を整備するということです。
企業は送り出した社員の安全に責任があります。とはいえ、彼らの動きを24時間365日見張っていられるわけではない。個人の判断に委ねざるを得ない部分は当然あります。ということは、第一に重要なのは緊急事態を自ら招かないよう予防すること。つまり教育です。
個人が判断する場合でも、環境が日本と違うわけですから、どのようなリスクが加重されるのかをしっかり教育し、心構えも含めてどういう対処をしないといけないのかを指導する。加重されるリスクに関しては、会社が面倒をみないといけない。
●海外安全サポートプログラムのカバー範囲
――自ら危険を招かないようにするには、教育とともに、情報収集も重要になりそうです。
外務省の海外安全ホームページは、毎日更新されるわけではありませんが、リスクの傾向をつかめます。ただ、情報量が多いので絞り込みが必要。また、大きな傾向とは別に、日々の情報もキャッチしなければなりません。
我々は毎日、海外安全に関するニュースを配信しています。自社の海外拠点がある地域のニュースを見ていただくことで、リスクをモニターし、状況に応じて本社から注意喚起や警報を出す。そうした情報の使い方を提案しています。
注意喚起や警報は、例えば感染症の流行から軽犯罪の横行、事故、災害、テロ、暴動、さらには戦争まで、さまざまなレベルがあります。教育啓発でカバーできるものもあれば、できないものもある。地政学上の内紛や戦争、また災害などは気をつけていれば避けられるというものではありません。そこが第二の重要なポイントです。
何かというと、緊急事態のレベル判断の基準とそれぞれのレベルでどう行動するかのマニュアルを策定し、実行体制を整備する。感染症や軽犯罪のレベルから国外退避が必要なレベルまでを一括で管理する体制・仕組みとマニュアルをつくり、緊急事態の兆候をキャッチしたら素早く動けるようにしておくということです。
- keyword
- 地政学リスク
- 海外安全
- 海外危機管理マニュアル
- 台湾有事
インタビューの他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2026/08/05
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2026/08/04
-
-
-
令和8年熊本地震 猛暑の被災地で熱中症を避ける
最大震度7を記録した令和8年熊本地震。熊本県内では400超の避難所が開設され、約9千人が避難している(29日時点)。真夏の避難生活は、熱中症の危険性を確実に高める。しかもこれからは、猛暑・酷暑下での復旧活動が本格化し、多くの人々が被災地で活動する。現地で熱中症をどう防いだらいいか。熱中症と災害医療に詳しい、さいたま赤十字病院高度救命救急センターの席 望医師に対策を聞いた。
2026/07/30
-
令和8年熊本地震 広がるデマ、どう見分ける?SNSとの向き合い方
28日に発生した最大震度7を記録した熊本地震では、早くも豪華寝台列車「ななつ星」が脱線したなどのデマ情報が広く拡散された。災害のたびに、広くSNSで拡散される情報にどう向き合えばいいか。デジタル空間の情報分析を専門とする Japan Nexus Intelligence の竜口七彩氏に聞いた。
2026/07/29
-
-
事例研究で有事に備え、組織の体質改善で形骸化を防ぐ
組織レジリエンスの強化やサイバーセキュリティーの向上、サプライチェーンの強靭化など、危機管理やリスク管理担当者が関与する領域は年々拡大している。変化する社会状況にあわせ、担当者はどのように学び、備え、対応することが求められるのか。森総合研究所代表の森健さんは、自治体と企業で危機管理担当者としての経験を積み、現在はコンサルタントとして、企業や団体の危機管理の支援を手がけている。自身の経験を踏まえ、危機管理の担当者にどうアドバイスしているのか、話を聞いた。
2026/07/27
-
-





※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方