では、日本が国家レベルでCATボンド、保険を検討した際、それを引受できるマーケットは存在するのだろうか。答えは、資本市場を活用すれば十分可能である。

上記の通り、現時点における日本の保険市場だけではキャパシティが不足しているが、世界的な低金利を背景にキャピタルゲインが期待できる保険市場に資本が流入してきており、ロンドンマーケットなど日本の地震リスクも積極的に引き受けるマーケットが存在する。世界銀行が提唱する保険やボンドの組み合わせによる最適なリスクファイナンススキームは、日本にとっても参考となるだろう。

リスクコントロールとリスクファイナンスの両輪の対策

一企業としては、前述の通り、自社で対応ができない項目があるにせよ、南海トラフ地震発生後に起こり得る事象を想定して、国家と同じく、リスクコントロールとリスクファイナンスの両輪のバランスを取ったBCP対策をすることが賢明だ。地震リスクのリスクコントロール策として、耐震補強を一般的な有効策の一つとして実施している企業も多い。確かに耐震補強は、人身被害を防ぎ、建物倒壊リスクの軽減にある一定の効果はあるが、それだけではBCP対策は限定的だ。実際、熊本震災で被災したある製造メーカーでは、倉庫の建物被害はなかったものの、倉庫内の在庫品の散乱により事業継続に多大な支障をきたした例がある。また、リスクコントロールはリスクを低減できても、財務リスクをゼロにすることはできないため、財務的損害が起こる前提でリスクファイナンスを検討する必要がある。地震保険は、地震リスクヘッジのリスクファイナンスの有効な一手段であるが、より有効性を高めるためには、まずは自社の地震による予想損失額を定量化し、その結果に基づいた保険設計と保険手配を手配することが望まれる。最も大事な点は、建物、機械などの資産損害のみならず、操業中断による利益損害を予想損失額に含めることである。マーシュが東日本震災により罹災した顧客の保険金請求支援件数137件を統計したところ、損害額の76%が操業中断によるものだった。この操業中断には、自社の直接的な損害のみならず社内外サプライヤーや電気、ガス、水道の遮断によって間接的に操業中断を被ったものも多く含まれ、やはり地震による最大のインパクトはサプライチェーン寸断であるとの裏付けとなる。その点からもサプライチェーンマネジメントに注力すべきだ。最近は、かなり精度の高い災害シミュレーションが可能であり、ある製造メーカーは1次から5次サプライヤー約7000社の被害額をシミュレーションで試算、寸断された道路を考慮した物資輸送計画の立案などのサプライチェーンマネジメントに活用している例もある。自社のみならず、サプライヤーを含め、業界内や場合によっては地方自治体とも情報共有し、有事の共助体制の構築も望める方向でBCP対策の検討を進めることが求められる。

(了)
マーシュジャパン株式会社 
大阪支社長
シニアバイスプレジデント
出田岳志