需給アンバランス10パーセント前後から強制遮断が動作

東京電機大学名誉教授 加藤政一氏に聞く

 

加藤政一氏 かとう・まさかず

東京電機大学名誉教授

 

1977 年東京大学工学部卒業、82 年東京大学工学系大学院電気工学専攻博士課程修了(工学博士)。広島大学工学部助手、東芝重電技術研究所を経て、2005 年東京電機大学工学部教授、25 年名誉教授。専門分野は電力システム、エネルギーシステム。電気学会、IEEE(米)、IET(英)、CIGRE(仏)、電気設備学会に所属。


今年の夏、東京電力管内を中心に電力不足が懸念されている。需要に対する供給力の余裕を示す「予備率」が3パーセントを切ると電力需給ひっ迫警報が出されるが、8月はこの予備率が0.9パーセントの見通し。突発的な発電所の事故、故障が起きれば需給はさらにひっ迫、深刻な状況になりかねない。大規模停電のリスクについて、東京電機大学名誉教授の加藤政一氏に聞いた。

今年の夏は電力不足が懸念されているが、大規模停電のリスクはあるのか(写真:Adobe stock)

――今年の夏、東京電力管内で電力供給の余裕を示す「予備率」が最低0.9パーセントになる見通しです。電力不足が懸念されていますが、原因は何でしょうか?
管内の火力発電所の長期点検が2件入り、その分の供給力が低下すると聞いています。通常の定期点検ならせいぜい1~2カ月なので、需要が増える夏場を避けて時期を調整できる。しかし長期点検ですから、時期をズラしてもどの道ピークにかかってしまうのです。

需給がひっ迫しているからといって、何も起きなければ問題はありません。しかしその間、稼働中の発電所が落雷や事故などで予期せぬトラブルに見舞われる可能性はある。運転できない発電所が増えると、予備率はさらに低下します。そうしたリスクは想定しておかないといけないでしょう。

対策としては通常、ディマンドレスポンスという手法がとられます。需給がひっ迫してきたとき、企業や家庭が電気の使用を控えてバランスをとる節電の要請に応じると、電気料の割引や報酬を受けられます。そのようにして需要をある程度下げ、予備率を上げるのです。

――今年の夏はいろいろな分野で節電の要請が多くなりそうですね。
思い起こすのが、2022年6月に東電管内を中心に発令された電力需給ひっ迫警報です。3月に福島県沖地震が起きて多くの火力発電所が被害を受け、本来なら供給できる電力が減ってしまった。そこに6月の高温の影響が加わった結果、予備率が3パーセントを切ってしまったのです。

先ほど火力発電所の定期点検は1~2カ月といいましたが、事業者は通常、電力需要が伸びる梅雨明けからの運転を見越して6月中に点検を終えるよう計画を立てます。ところが2022年は6月がとんでもなく暑く、予想以上に需要が伸びた。とはいえ点検中の発電所を動かせないので、供給が足りなくなったのです。

今年も例年より暑くなり、昨年以上に需要が増える可能性はある。その暑さが早く到来したら、2022年と同様に、6月後半は需給がかなりシビアになりそうです。特に大口需要家には、電力使用を控える要請が出るかもしれません。

昨今の大規模停電の原因はUFR の動作

――節電などの手が打たれたとして、しかし予期せぬトラブルで発電量が下がったり、予想以上に需要が伸びたりすると需給がひっ迫し、結果、停電もあり得るのでしょうか?
停電の原因とメカニズムですが、昨今多いのはUFR(不足周波数リレー)による停電です。2018年の北海道胆振東部地震がわかりやすい例。下の図は縦軸が系統周波数、横軸が時間の推移で、地震直後に苫東厚真で2機の火力発電所が止まり、供給が急減して系統周波数がガクンと下がりました。

●北海道ブラックアウト 周波数と北本潮流の変化

画像を拡大  出典:電力広域的運営推進機関「平成30年北海道胆振東部地震に伴う大規模停電に関する検証委員会最終報告」

そこで、UFRによって一部の負荷を停電させて需要を減らした。同時に、本州と北海道を結ぶ直流送電設備(北本連系設備)によって大量の電力が北海道側に送られてきました。需要と供給のバランスがとれ、周波数はいったん元に戻ります。これが、緊急時に系統の需給バランスを保つ一般的なメカニズムです。

ところが北海道の場合、地震発生が午前3時7分の深夜だったことが災いした。昼間であれば鉄道が運転を止める、工場がラインを止める、ビルがエレベーターを止めるといった具合に、地震発生後は電力需要が下がります。しかし深夜は逆で、そもそも鉄道や工場は動いていない。下がる需要がないうえ「すわ、地震だ」と家庭が照明をつける、テレビをつけるなど電力需要が増えるのです。

そのため、周波数はいったん50ヘルツに戻ったものの、需要が増え続けたことで発電量(供給)より負荷(需要)が大きい状態となり、周波数がまた下がってきた。電力会社は出力調整などを行い回復に努めたのですが、苫東厚真で運転を続けていた残りの発電所が徐々に出力を下げ、最後に止まってしまいました。

このときすでにUFRによる負荷遮断を複数回行っていますから、もう切れる負荷はない状態。北本連系設備からの電力もフルで、これ以上は供給も上げられない。苫東厚真で動いていた最後の1機が止まったことで周波数がストンと落ち、ほかで稼働を続けていた発電所もいっせいに止まってブラックアウト(全域停電)に至ったのです。

――UFRというのは、電力需給がひっ迫したとき、無理やり停電させて系統の負荷(需要)を切る、と。一種の安全装置ですか?
そうです。本来は発電所が出力を上げればいいのですが、燃料の投入などが必要ですから、瞬時には上げられない。瞬時に周波数を戻すには負荷を切るしかありません。

負荷が大きいまま電気を供給し続けていると、系統周波数は下がっていきます。どういう状態かというと、発電機が回転速度を落として運転していることになります。いまの火力発電所は熱効率を上げるため蒸気タービンの羽根が大きくなっていますが、周波数が下がるということは、羽根の回転速度が遅くなるということです。

その状態が続くと羽根が振動し、共振領域に入って壊れてしまうおそれがある。そうならないよう、火力発電所は周波数が大きく落ちると自ら運転を止めるようにできています。もともと供給力が足りないところで止めるのですから、負荷がさらに上がって周波数は下がり続ける。最終的にはブラックアウトです。それを避けるため、UFRで一部の負荷を切って周波数を元に戻す仕組みがとられているのです。

●UFR(不足周波数リレー)の仕組み

データ提供:加藤政一氏

UFRは、基準周波数が1.0~1.5ヘルツ下がったくらいから動作します。発電と負荷のアンバランスが10パーセントになると周波数はおおむね1ヘルツ下がるので、需要が500万キロワットだとすると、50~70万キロのアンバランスが出たらUFRが動作する。北海道は北本連系設備から大量の電力が送られたこともあって一時的に持ちましたが、一般的な系統では10~15パーセントが限界でしょう。