■ERPとBCPとの関係

ところで、上に述べたERPの説明には、ある種のデジャヴ(既視感)が伴うことも確かです。BCPやBCMに力を入れている大企業や中堅企業では、初動対応計画とか緊急時対応マニュアルといった名前で作られたものがERPに相当するからです。ただしどのような位置付けかによって、著者が意図するERPとは若干意味合いが異なることを指摘しておかなくてはなりません。

BCP全体の枠組みからすると、この中の災害発生初期に運用する手順がERP(初動対応や緊急時対応マニュアルのこと)に当たります(図表1参照)。

 

多くの場合、日本のBCPは大地震を想定して作られていますから、ERPは地震の発生を前提としてトリガーされる全体の中の「部分」あるいは「過渡的」な要素となっています。これはこれで良いのですが、問題なのはBCPのすべてが「地震」という1本の想定で支配されているために、ERPも地震の対応手順しか書けないという制約があることです。もし他の災害対応が必要なら、災害の種類だけ何冊もBCPを用意しなさいということでしょうか。これでは息切れがしてしまいますね。

おまけに、ERPの必要性をしっかり理解し、完備している大企業や中堅企業と違って、一般的な中小企業ではペライチの避難手順書すら持っていないケースもめずらしくありません。そのような会社では、BCPの一部としてのERPをイメージしながら作るなんてムリでしょう。

■BCPの枠組みや流れを気にせずに独立的に作れる

では、この講座で述べるERPは、一般的な中小企業でも作れるような簡便性と直感性を備えているのでしょうか。基本的にERPは、BCPの流れの中で運用するという考え方に変わりはありません。が、ここではもう一つの側面を強調したいと思います。それは、ERPがBCPの枠組みに左右されない独立性を持っている、必要と思うなら、BCPの流れを気にせずにサクサク作れるものだということです。

一例を挙げましょう。これまで大きな地震に遭遇したことのない会社では、「地震よりも火災や台風被害の方が心配だ」と主張するところも少なくありません。その際に中核事業の選定とか業務プロセスの洗い出しとか、最大許容停止時間、目標復旧時間の設定といった手順を踏まなければならないとしたら、思わず引いてしまうでしょう。企業のクライシスマネジメントは、文字通り何が起こっても対処できるものでなければなりません。その意味で、BCPの理論的なステップを踏まなくても火災や台風に対処する手順が必要と思うならその部分だけ作り、どしどし役立てられることが必要でしょう。そしてその要件を満たしてくれるのが、ERPなのです(図表2)。

 

なおERPは、表紙や目次などの形式的な部分を備えた何ページにもわたるドキュメントのようなものではありません。一つの災害につき、A4で1~数枚程度のシートのようなものとイメージしてください。このボリュームは会社の規模と事業の性質によって異なります。(続く)

(了)