いざという時に備えてERPを日ごろから見直そう。写真は昨年の糸魚川大火で焼け残った建物。

■緊急対応プランを日頃から生かすための3つの工夫

日々の会社の業務は、右から左への流れ作業そのものです。ERP(緊急対応プラン)の策定のようなイレギュラーな活動の場合はなおさらのこと。ERPが完成し、社長の承認サインをもらう。やれやれ、これでやっと終わった。この手の文書なんて実際に災害が起こったときにしか手にする機会はないだろう。あなたはほっと胸をなで下ろし、二度と取り出すことのなさそうな棚や引き出しの奥深くにしまい込む。席に戻ればそこに待っているのは書類の山また山…。こうしてERPはすぐに忘れ去られてしまうのです。

時間が経てばERPに記載した情報は古くなるし、「緊急時にはアレとコレを用意すること」と規定してあった肝心の"アレとコレ"が、いざというとき見当たらないといったことも起こります。緊急時の方針や手順の意味や目的を忘れてしまい、機敏な緊急行動がとれず、お互いに顔を見合わせておろおろするばかり・・・。手入れの行き届かない車は錆びるしかありません。

こんなことにならないためにも、万一の事態のときにはERPが曲がりなりにも役に立ち、スタッフ全員が適切な行動がとれるように、日頃からERPを生かす工夫をすることが肝要でしょう。ポイントは次の3つです。

一つは「日常の点検」。災害を未然に防ぎ、あるいは災害発生時の被害を軽減するための防災・減災対策が、正しく維持されているかどうかを点検するという意味です。次が「記載内容の見直しと更新」。ERPは過去の記録を保持するための文書ではありません。定期的に見直しを行い、記載情報を更新することで、必要な時にいつでも役立つツールとなります。最後は「訓練の習慣づけ」です。訓練は大切と分かっていても、日々の業務に忙殺されてなかなか習慣づけられない。あるいはマンネリ化して参加する意義が見つからないといったことが起こる。一工夫してみようではありませんか。

■日常の点検方法

ここではERPの管理と運用の一つ目、「日常の点検」について説明します。火災や自然災害をイメージしながらお読みください。ポイントは以下のとおりです。

①「防火と避難」の点検
消火器やスプリンクラーの設置状況、防火シャッターの開閉などを含め、火災発生時に正しく使えるかどうかを点検します。屋内から屋外への避難経路に障害物などを放置していないか、施設内アナウンスが全館にくまなく聞こえるなどについても点検します。

②「非常時備蓄品」の点検
これは食料と水、毛布(寝袋)など非常時にかかわる衣食住用のアイテムと、それ以外(簡易トイレ、懐中電灯、バッテリーなど)に分かれます。食料などは必要な数量が確保されていること、そして消費期限と購買と消費のスケジュールなどもチェックしてください。また、緊急対策本部の活動に必要なアイテムもあります。これらについても緊急時にすぐに調達できるように品目と数量を確認しておきましょう。

③災害個別の「防災・減災対策」の点検
ERPで設定した災害リスクについて、被害や影響をなるべく小さく抑えるための対策が済んでいるかどうかの点検です。複数の通信手段は確保されているか、いざというとき機能するかについては、訓練と併せてチェックするとよいでしょう。地震対策の場合は、オフィスでは背の高い棚の固定、OA機器、サーバー類の移動・転倒防止、工場では機械設備の固定や転倒防止、建物の補強などを点検します。重要な活動の継続に必要なものとして、自家発電機とその燃料の調達可否についてもチェックしましょう。点検頻度は半年に1回程度です。

■記載内容の見直しと更新

ある日大地震が起こった。緊急対策メンバーはそれぞれERPを持ち寄って必要な行動に着手しようとしたが、どうも様子がヘンだ。書いてあることと現状とかみ合わない。緊急対策メンバーのリストにすでに部署を異動した人や退社した人の名前が残ったままだ。新規に獲得した重要顧客の連絡先が名簿に記載されていない。緊急修理の依頼先として一覧に記載していた機器の保守サービス業者に連絡をとろうとしたら、事業所移転のためつながらなかった…。

万一の際、このようなことが起こらないように、ERPの記載情報は定期的にメンテナンスし、最新の情報を維持しておくことが大切です。このメンテナンスの内訳とタイミングは次のとおり。

① レビュー(見直し)はERP策定メンバー全員で
緊急対策メンバーにERPを持参してもらい、ERP見直し会議を行うものです。記載されている方針や行動手順、対策に関する不備や疑問点、課題などを洗い出してもらいます。ばく然と文字を追うのではなく、できる限り状況をイメージしながら読むことが大切です。この作業を通じて、ERPの記載事項を検証できるだけでなく、緊急対策メンバー自身の危機管理意識を高めることにもつながります。

②情報の更新個所はあらかじめ見当をつけておく
人・モノ・顧客情報等の更新のことです。文書を見直し、更新する場合には、あらかじめ更新が必要となるであろう個所を特定しておくことが多いものです。緊急対応プランの場合、次のリスト・シート類が対象となります。緊急対策チームメンバーのリスト(異動や入退社に関して)や緊急連絡先リスト(保守点検サービス業者等の連絡先)、非常時備蓄品目リスト(品目の買い替え、数量変更)、主要顧客・取引先リストなどが主な更新対象となるでしょう。

更新のタイミングですが、原則的には更新の必要が生じたら早めに着手するのが望ましいことは言うまでもありません。しかし状況次第で何度も更新を余儀なくされるようなことは避けなければなりません。したがって例えば半年に一回とか、年一回の節目の時期(人事異動の時期など)を選んで情報更新の時期を設定するとよいでしょう。

■"次につながる"訓練にしよう

訓練がいかに大切なことであるかは、もはや説明を要しませんが、「同じことを反復するだけ」「単調で退屈」「時間のムダ。訓練より仕事の方が大事」と、参加を渋る人も少なくありません。このようなネガティブな意見が出やすい背景には訓練のマンネリ化が潜んでいることが多いものです。マンネリ化の主な原因は、訓練をやりっぱなしで結果がフォローされていないから。そこで、誰もが「訓練は参加するだけの価値がある」と実感できるような工夫、次の訓練につながる工夫をしたいものです。これを改善するためのポイントは次の通り。

まずは「社長のコミットメント」。朝礼や全体会議、あるいはLANなどを通じてビデオメッセージによる「訓練の目的と参加への協力」を呼びかけてもらいましょう。また、社長に訓練の現場に立ち会っていただくことも効果的です。また、「負担が少なく飽きの来ない訓練をプランニングする」ことも必要でしょう。最低年1回程度の実施とし、同じ想定や条件の繰り返しにならないように少し留意してください。1回15分~長くて30分以内に収まるようなコンパクトな訓練にしましょう。

「訓練を通じて得られた"気づき"を記録に残す」ことも大切です。"気づき"とは、訓練を通じて参加者が気づいた問題や課題、良かった点や悪かった点、改善要望などを指します。アンケートやレポートとして提出してもらいましょう。訓練を実施した事務局やオブザーバーの所見も記載することをお忘れなく。さらに、「結果を次の訓練に生かす」ことも忘れずに。訓練の結果は速やかに集計し、全社にフィードバックします。訓練のテーマや、やり方に関するものは事務局で解決し、次の訓練に反映させる。ERPの手順に関するものはERP会議メンバーに集まってもらい対策を講じる、などの処置を講じてください。

ERP策定講座、いかがでしたか。気になる災害やリスクが見つかったら、すぐさま対処方法を考えてERPシートにまとめておきましょう。備えあれば憂いなし。後悔先に立たず。健闘を祈ります。

(了)