2016/12/05
リオ五輪から学ぶ 日本の危機管理を高めるヒント
【特集1】 30機関が平時から連携
行政機関が集積するシダデノバ地区で、ひときわ近代的な外観を誇るリオ・オペレーション・センターは、リオデジャネイロ市がオリンピックに向け2010年12月に整備した市独自の危機管理センターだ。連邦政府がオリンピックに向けて整備した国家レベルのコマンド・コントロール・センターとは別に、平時から災害や緊急事態に備えた対策本部として活用している。

開発の目的はオリンピックだけではない。2010年にリオ市では、大雨により市内で約70人、州全体では200人以上が犠牲になる災害が発生したことから、二度とこうした悲劇を繰り返さないようにと、州や連邦に頼らない独自のシステムとして整備を決めた。
海に面し、いくつも急峻な山が存在するリオ州は気象が急激に変わりやすく、毎年のように大きな災害が起きている。リオ州の別の地域では2011年に山間部で900人を超える犠牲者が出た災害も発生している。
こうしたことから、オペレーション・センターでは、24時間365日体制で、気象や市内の交通状況、その他さまざまなライフラインの状況を監視し、豪雨や地滑りなどの危険性が高まれば市民に対してサイレンやツイッターなどのSNSを活用して直ちに警報を出せる体制を整えている。
30機関が常時連携

ここで働くのは市職員だけではない。警察や道路メンテナンス、水道、下水、ガス・電力など、行政サービスやライフラインに関わる企業など30ほどの関係機関が常時、この施設でさまざまな情報の収集・監視にあたっている。
センター長を務めるペドロ・ジュンケイラ氏は「我々は情報のツールボックスのような存在。スーパーマーケットに例えるなら、さまざまな関係機関がそれぞれの店を持ち、市民が必要とする情報を必要に応じて提供している」と説明する。

オペレーション・センターの運営にあたるスタッフは計200人で、交代制で平均60人程が常時勤務している。テレビや新聞、インターネットのメディア機関も施設内に常駐している。「ここにいれば、どこで何が起きているかを、いちいち説明しなくても把握できる」(ジュンケイラ氏)。
650台のカメラで市内をモニター
市内には約650台の監視カメラが設置されているほか、気象レーダーも整備されており、こうした映像やレーダーからのデータが大画面上に映し出される。建設にはIBMが全面協力をした。施設内には、市長と市の民間防衛部がリアルタイムでコミュニケーションがとれるようテレビ会議システムも整備されている。

オペレーション・センターに装備されている主要なソフトプログラムの1つがGeoportalだ。このソフトは、土地に関連した250を超えるレイヤーと、交通状況や雨量、その他市民の命に影響を及ぼすようなあらゆるデータを統合して表示することができる。気象レーダーについては、250kmの範囲を対象に降雨の位置や強さなどを監視・予測することができるほか、市内110カ所に降雨量を15分ごとに計測できるモニターが設置されている。これらの情報によって、豪雨の影響を受けやすい地域が特定でき、必要な予防措置がとれるようになるという。
コントロール・センターでは、音声やサイレンに加え、2013年からツイッターを活用して市民に直接、情報を提供するサービスも開始した。市が持つ公式ツイッターのアカウントに登録している3万5000人を対象に、テキスト・メッセージ(SMS)で警報を送ることができる。交通事故などにより道路が閉鎖された場合は、代替ルートを示すこともあるという。
スマートフォンなどのアプリとも提携している。例えば、GoogleMapを活用したWazeや、公共交通機関の利用を円滑にするMoovitというアプリは市の発表を即座に反映できる体制になっているという。
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