2016/12/14
リオ五輪から学ぶ 日本の危機管理を高めるヒント
特集 1 視察記 ①

2012年ロンドンオリンピックの危機管理の取材に続き、今回はリオデジャネイロオリンピックの取材に同行させていただきました。前回のロンドン大会はオリンピック開催の約1カ月前のタイミングで現地に入りましたが、今回はリオオリンピック・パラリンピックが閉会した1週間後にリオに入りました。
リオ2016オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(リオ2016組織委員会)の建屋の中は既に撤収が始まっており、人も日に日に少なくなっていく最中に、大会までの備えや、開催期間中に実際どんなことが起きたのかなど多くのことを聞くことができました。ロンドン大会のことも思い起こしながら今回の取材を振り返ってみたいと思います。

ロンドンオリンピック危機管理
ロンドンオリンピックでは、あらゆるリスクが想定されていたように思います。例えば、脆弱な交通システムへの対策。地下鉄は小さな車両で、冷房は無く、よく止まります。ロンドン市内の道路はいつも渋滞しています。その他にも、テロやサイバー攻撃の危険も高まる一方で、水害、停電、インターネット回線故障なども少なくありません。そんな中でイギリス政府や組織委員会では、一般市民向けに、地下鉄のあらゆる場所に「大会開催中に別ルートを用意しよう」というポスターを掲げ、企業に対しては「できるだけ休暇を取って活動を抑制しよう、BCPを用意しておこう」と呼びかけていました。
その効果があってか、大会開催中、ロンドン市内の混雑は思った以上に緩和されました。チケットが売り切れだったはずの観客席は満席にならず、何倍にも価格が上がったはずのホテルも通常料金で泊まれるところが散見されました。繁華街のウエストエンド地区においては、レストランの売り上げが平常時を下回った店も多いと聞きました。
イギリスでは地下鉄を改修するのは構造的にも財政的にも現実的ではないとされています。だからこそ、政府や組織委員会では今の状況が変わらないことを前提に、個人の責任として、別ルートを考えることなどを呼びかけ、市民もまた、それを受け入れたのでしょう。その点、日本では、国や主催者が過重な責任を求められる傾向が強いように思います。
そうした中である一定の評価をするならば、全く個人的な意見ですが、危機管理は適切になされたと思います。ただし、安全が守られる一方で、国内外からの観客を最大化し、ビジネスを最大化することには苦戦したと言わざるを得ないのではないでしょうか。
課題が山積したリオデジャネイロ
さて、リオですが、いざ行くとなると、多くの知人に「大丈夫か、危険だぞ」と散々言われました。確かに日々、各地で起きる銃撃戦や、犯罪リストの内容は事実だし、気を付けなければならない場所に違いはありません。
しかしながら、いざ現地に行ってみると、ラテン系のフレンドリーな人々が温かく迎えてくれる観光地であり、世界中から多くの人がやって来て楽しんでいます。十分に安全とは言えませんが、渡航前に刷り込まれたリオのイメージは今思えば風評被害とも言えるレベルで、そのために、多くの日本人、もしくは同様に他の国の人々がリオへの渡航を断念することにつながっているのは残念と感じたことは最初に申し上げておきます。

リオ五輪から学ぶ 日本の危機管理を高めるヒントの他の記事
- 特集 1 テロ対策チェックリストテロ対策の保安アドバイス
- 特集 1 特別寄稿ITセキュリティについての考察
- 特集 1 特別寄稿大会警備を振り返る
- 特集 1 視察記 ②東京大会はリオの数倍の攻撃が起きる
- 特集 1 視察記 ①シナリオ絞り組織一体で効果的な訓練を
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方