2016/12/18
リオ五輪から学ぶ 日本の危機管理を高めるヒント
特集 1 特別寄稿

オリンピック・パラリンピックは、リオデジャネイロ大会を終え、東京に大会旗が引き継がれました。テロなどによる大会の混乱はなく、リオデジャネイロ大会の警備は、その最も重要な目的を遂げたといってよいでしょう。まずはともかく、これがなによりでした。
最近会う人からは、例外なく「リオデジャネイロ、どうでしたか?」と聞かれます。オリンピックともなると、世界中から1万人を超える選手たちがやってきます。来場客が何百万人、それに対する警備体制は8万5000人、などという警備は、私自身、もちろん経験したことはありません。リオデジャネイロで、それを実地に見させてもらったことは非常に有意義でした。自分は、オリンピック、パラリンピックの両方を見てきましたが、以下では、オリンピックのほうを中心に私見をご紹介します。
会場の警備体制
8万5000人の警備体制というのは、組織委員会との契約による民間警備員だけでなく、むしろ主力となっていた警察や軍隊などを合わせた全体の数字です。その中で、私の視察の主な対象であったベニュー警備の体制は、1万6000人余りとされていました。競技会場・非競技会場、合わせて「ベニュー」というのですが、ベニュー警備には、2つの柱があります。1つ目は、来場者や車両の「セキュリティ・チェック」です。仮設のテントでチェック・ポイントを設営して、来場者には金属探知機やX線検査装置を使ったチェックをやります。業界でよくMag&Bagと言われる作業です。車両は、車両下部の検査装置などでチェックします。2つ目は、ベニュー内の警戒作業で、警備員を配置したりカメラで監視したりします。
大会の特に最初の方では、警備要員の確保などの問題から、来場客のMag&Bagの効率が今1つで、あちこちで長蛇の列ができる、という現象が見られました。入場までの待ち時間が1時間を超えた例も少なくなく、その結果「スタンドは空席だらけだが、スタジアムの周辺には人がたくさん」という場所も出てきていました。ここはちょっと考えさせられました。
しかし、警察や軍は、特に開会式や閉会式の警備などで銃を携えた姿を見せるなど、非常に厳重に警戒しようとしていることがよく伝わってきました。新たに制定されたテロ対策立法に基づく事件検挙もあり、関係機関を挙げて全力でやっている、ということもよく伝わってきました。
2014年のワールドカップ・サッカー大会の際に導入されたというカメラシステムは、地上に設置されたものだけでなく、バルーン(気球)に備え付けられたカメラの映像なども指揮所に伝送して、それを見ながら警備指揮するようになっていました。そういう新兵器も投入されていました。
交通対策
また、リオデジャネイロは、もともと慢性的な交通渋滞で有名な街でした。人流・物流の停滞を通じて、大会運営に悪影響を及ぼすことが懸念されていたのですが、総合的な交通総量抑制策が功を奏して、大会期間中の交通流は、めざましく改善しました。地下鉄4号線の開通が大会に間に合ったことも大きかったと思いますし、関係車両専用・優先・共用の3区分からなるオリンピック・レーンの規制も、カメラによる自動取締りと相まってよく遵守されていました。選手や大会関係者が動く昼間の時間帯は、貨物車両の走行が制限されました。開会式やトライアスロンなどの日を臨時祝日にしました。小中学校の冬休みも大会にあわせてずらしました。とにかく何でもやるという姿勢に見えました。大会運営上の「アキレス腱」第一候補の呼び声が高かった分、当局の危機感は相当なものでした。結果的にはそれが良かったのだろうと思います。


リオ五輪から学ぶ 日本の危機管理を高めるヒントの他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2023/01/31
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2023年1月31日配信アーカイブ】
【1月31日配信で取り上げた話題】家庭での防災行動を高めるために
2023/01/31
-
-
1000人に聞いた防災の取り組みと行政への期待
リスク対策.comは、地域住民がどの程度防災に取り組んでいるのか、また防災の観点から行政に対してどのような要望を持っているのかなどを把握する目的でインターネットによるアンケート調査を実施した。その結果、2021年5月から避難勧告が廃止され避難指示に一本化されたことについては約5割しか理解していないことや、平時から国や地方自治体の防災のホームページなどがあまり活用されていない実態が明らかになった。調査は、2022年11月21日から22日にかけてインターネット上で行い、全国の20歳以上の成人男女1000人からの回答を得た。質問は、回答の質を高めるため「この質問は一番右の回答をお選びください」という条件項目を入れ、適切な回答をしなかったものを除き、計889人を有効回答として分析した。
2023/01/30
-
社内滞在時をイメージさせる実践的な訓練と備蓄
テクニカルセラミックスを開発・生産するクアーズテックは2012年、東京都の帰宅困難者対策条例を機に一斉帰宅抑制対策に乗り出しました。独自のプログラムを追加した実効性の高い訓練や被災時の心理にも配慮したきめ細かな備蓄が評価され、2021年には東京都のモデル企業に。同社の取り組みを紹介します。
2023/01/29
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2023年1月24日配信アーカイブ】
【1月24日配信で取り上げた話題】最強寒波への備え
2023/01/24
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2023年1月17日配信アーカイブ】
【1月17日配信で取り上げた話題】防災心理を学ぶゼミ生が制作した企業の防災マニュアル/コロナ発生から3年 企業の初動対応を振り返る
2023/01/24
-
BCPと助け合える関係が機能した災害復旧活動
2019年の台風19号でグループ含め3工場が壊滅的被害を受けたカイシン工業は、経営トップが「全力復旧」の方針を発表すると各工場が即座に活動を開始。取引先や協力会社の支援を受けて設備の交換を迷いなく進めるとともに、代替生産によって早期に出荷を再開しました。同社のBCPと助け合える関係づくりを紹介します。
2023/01/19
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方