長野県長野市豊野町にある社会福祉法人賛育会と豊野事業所は、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、ケアハウス、訪問介護事業所、ディサービスセンター、訪問看護、通所リハビリテーション、それにクリニック等を有する大規模法人である。

台風19号で大きな被害を受けたが、一人の人的被害もなく避難を行い、また応急対策時にはNPO等と連携してボランティアセンターの運営支援、炊き出しなど地域貢献活動を展開している。賛育会事務長の松村隆氏にお話を伺ったので、概要を報告する。

なお松村氏からの聞き取り部分は私がまとめたものであり、必ずしも正確な文言ではない。イメージづくりに役立てていただければ幸いである。また、松村氏からの聞き取りの後に、私のコメントを記す。

福祉施設から運び出した家具類(撮影:新建新聞社中澤幸介、2019年11月29日) 

職員による避難支援

【松村氏への聞き取り】
・大勢の高齢者を無事に避難させられたのは、事前に防災訓練を年3回、ちゃんとやっていたのが大きかったと思う。だいたい訓練通りに避難できた。
ただ、グループホーム利用者は2階に上げる計画だったが、実際は洪水の予測をして、3階に上げた。1階の特別養護老人ホーム利用者は2階に上がってもらった。
ご覧のとおり、1階は完全に水没している。特養の利用者はヘリコプターで吊り上げただけで亡くなってしまう可能性があり、ヘリへは救助要請しなかった。診療所に入院している患者さん59名は2階から3階に上げた。当日は総勢278名を24名のスタッフで安全に避難させることができた。

[鍵屋コメント]
この事例のように、避難確保を上手にできた福祉施設では、異口同音に事前の訓練が大切だったと述べている。それは風水害に限らず、津波でも同じだ。

ただ、発災時の状況はさまざまであり、必ずしも訓練想定通りにはいかない。そのとき、状況を見て避難行動を柔軟に変える必要が生じる。賛育会のようにきちんと訓練をしているところでは、躊躇なく臨機の対応をとっている。

【松村氏への聞き取り】
・避難指定されているのは体育館だが、高齢者は体育館での避難生活がとても厳しい。やはり、福祉施設などバリアフリー環境の整ったところが避難所として必要だ。
・課題もあった。食料やポータブル発電機は備蓄していたが、保管場所が1階倉庫の棚の上。残念ながら水に浸かってしまった。それで食料が届いたのは、夜9時になっていた。
・14日朝、県や市がトリアージをして移送することになった。トリアージ赤が88名もいて、全部で120名が移送された。
それでも160名残っていたが、体育館は雑魚寝でトイレも不安だったので、徐々に被災地外の同じ法人施設へ避難してもらった。

[鍵屋コメント]
一般の指定避難所は、毛布と乾パンに代表されるように、若い人たちが一晩過ごすという一昔前の感覚で準備されているのではないだろうか。重要なのは高齢者や障がい者も安心して使えるトイレ、寝床、水・食料、それに衛生、温度管理などだ。これからも高齢化が進むことから、自治体はこれらが整う福祉避難所や福祉避難スペース、宿泊施設の確保に取り組むことが重要だ。