耐震化と津波避難を考えたコミュニティのデザインが国難災害の被害を減らす(イメージ:写真AC)

2025年5月29日、災害対策基本法、災害救助法等の一部を改正する法律案が参議院で可決成立。これに先立つ5月9日、参議院災害対策特別委員会で同法律案について参考人質疑が行われ、そこに15分の意見を述べる機会をいただき、法改正すべき2つの背景と改正後に実施すべきと考える6つの政策提案を行った。

なお、陳述の様子は参議院HPやニコニコ動画で見られるので、関心のある方はぜひご覧いただきたい。
https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php

前回の背景に続き、今回は、国難災害を乗り越える2点の政策提案を紹介する。これらは、従来の防災対策を福祉の観点からアップデートするものとなっている。

住宅耐震化は自己負担のない公費で

国難となる地震防災において、最も重要なのは住宅の耐震化である。どんなに備蓄をしていても、避難訓練をしていても、近所との良いつながりがあっても、住宅の下敷きになって亡くなったら、意味がなくなる。

住宅耐震化にはいくつか課題があるが、最も大きなものは経費がかかることだ。日本木造住宅耐震補強事業者協同組合の調査によれば、改修工事費の平均は167万円になる。このため、全国の自治体は補助率2分の1、3分の2などを支援し自己負担を抑えようとしている。それでも、年金暮らしの高齢者が負担するのは、一般的に困難だ。

確かに、耐震化をすることで住宅の経済的価値が向上するので、その応益に応じた一定の負担をするのは当然、という考え方はわかる。私も防災課にいたときはそのように考えていた。

しかし、福祉事務所長になると、例えば生活保護を受けている方や年金でギリギリの生活をしている方は、耐震化をやりたくても負担能力がない。あるいは、耐震性のある良いアパートに移るのも難しい。

そこで、耐震性のある住宅に住むのはシビルミニマムと考えてはどうだろうか。決して突飛な話ではなく、例えば災害後に民間のアパートを借上型仮設住宅として住む場合は、そのアパートに耐震性があることが条件になっている。住宅に耐震性がなく、かつ負担能力がない場合には耐震改修に必要な経費を全額公費で負担する。これを応能負担といい、福祉ではごく当然のシステムである。

実際に、耐震改修に必要な経費のほとんどを自己負担なしで行っている高知県黒潮町は、1万人の人口で154件(平成30年実績)と驚異的な改修実績を誇る。もちろん、上限額はあり、設計費30万円、工事費125万円である。しかし、ほとんどは上限の範囲か10万円程度の上乗せで済んでいる。そこに収められるように改修事業者も講習会などで技術を磨いている。

黒潮町は、南海トラフ地震後に工務店がいなくなっていれば住宅を建てることができずに町が衰退すると考えている。そこで、今、工務店の仕事づくりが必要であり、耐震化は一石何鳥もの事業だと伺った。