能登半島地震の災害関連死と介護施設
能登半島地震では、地震、津波による死者697名にのぼるが、災害関連死はその3分の2以上の469名にもなる(北陸放送2025年12月13日現在)。ほとんどは高齢者である。NHKの調査によれば、災害関連死において「最後に体調を崩した場所」として最も多く挙げられたのが介護施設であったことが明らかになっている。
●能登半島地震の関連死者で体調悪化した場所
高齢者が介護施設に入所、避難していながら、トイレの使用に不自由し、必要な薬も手に入らず、次第に衰弱して亡くなっていった事例が少なからずあった。そのような状況の中で、十分な支援ができないまま看取りをせざるを得なかった福祉関係者の悲しみや無力感はいかばかりであっただろうか。
私たち(一社)福祉防災コミュニティ協会が行った調査では、災害発生直後の初期段階において、多くの福祉事業者が行政や保健所、地域住民、医療・看護分野、さらには同一地域内の別法人の福祉施設とのつながりを十分に持てておらず、結果として孤立した状態に置かれていたことが明らかになった。
福祉施設は、平時には他の関係者と強いつながりがなくても必要な時に連絡、相談して運営できる。しかし、災害時にインフラが止まったり、施設が損傷したり、職員が被災して集まれないとき、連携がないことで利用者への支援の遅れや残った職員への負担の集中につながったといえる。
福祉事業の教訓
能登半島地震の発生からまもなく2年になるが、現地では非常に寒い冬を迎えている。生活に欠かせない道路や上下水道、学校などの公共施設の復旧は国や自治体が主体となって進められる。一方で、民間が運営する福祉施設の復旧は、各種補助制度が用意されているとはいえ、基本的には事業者自身の自助努力に委ねられているのが現状である。
さらに深刻なのは、施設そのものが被害を受けただけでなく、福祉サービスの利用者やその家族が他地域へ転出してしまい、事業の継続が困難になるケースが少なくないことである。その結果、やむを得ず廃業を選択する福祉事業者も現れている。
福祉事業者が地域から姿を消すと、介護や障がい福祉サービスを必要とする人々やその家族は元の地域に戻ることができなくなる。こうして人口流出が加速し、地域の衰退がさらに進むという悪循環に陥ってしまう。
福祉BCPの内容と義務化
介護事業者や障がい福祉事業者は、2023年度末までにBCP作成が義務付けられ、危機が発生した際に重要な事業を中断させない、あるいは中断した場合でも可能な限り短期間で復旧させるための「方針、体制、手順」などをあらかじめ定めているはずである。
特に感染症のまん延や地震・水害などの自然災害は、多くの利用者や職員の生命・健康に直接的な影響を及ぼす。そのため事前にBCPを策定し、次の3点を確実に実行できるよう備えておくことが不可欠である。
①利用者や施設職員の安全を確保する
②重要な福祉サービスを継続する
③可能な限り早期に復旧を図る
作成したBCPが実際の災害時に機能するかどうか。今まさに問われている。
福祉への期待とBCPの実効性確保
2025年5月の災害救助法改正により、「福祉サービスの提供」が救助の種類として新たに明記された。これは、災害時における福祉の役割が災害法制度上も正式に位置づけられたことを意味する。中でも特に重要なのが、災害時に福祉事業者が事業を継続すること、そして福祉避難所を適切に運営することである。
ここで、皆さんの自治体の取り組みを振り返ってみてほしい。福祉事業者が作成したBCP(事業継続計画)について、自治体としてどのような点検を行っているだろうか。
BCPの内容についてヒアリングを行い、実効性が確保されているかを精査し、不足している点をアドバイスしてくれるだろうか。残念ながら、私たちが把握している限り、そのような体系的な点検を実施している自治体はほとんど見当たらない。
そこで、福祉防災コミュニティ協会は、BCPの実効性を高めたいと考える福祉事業者や自治体のニーズに応えるため『ひな型でつくる福祉BCP~実効性ある計画と役立つ研修・訓練の方法』(2025年3月、東京都福祉保健財団)において、自己点検のためのチェックリストを作成した。次ページ以降、その一部を紹介する。
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