あたり前の感染症対策がものをいう

Q7 するといまの段階で、一般の人は身を守るために何に気を付ければよいですか?

 

健康な人が突然悪くなって重症化するケースはいまのところ起きにくいと思いますが、すると結局、新型コロナウイルスに対しての特別な注意というのはあまりないわけです。感染症に対する一般的な対策、とくに飛沫感染や接触感染に注意して、少しでも一人一人のリスクを下げていくことだと思います。

普段の感染症対策が新型ウイルスへのリスクも下げる(写真:上下とも写真AC)

具体的には常日頃のインフルエンザ対策やノロウイルス対策でいわれている手洗い・うがい・マスク。つまらないことのようですが、感染症対策の基本です。漠然と心配や不安を募らせるのではなく、基本をきちんとやりましょうということですね。

現実的に現在の日本では、新型コロナウイルスにかかるリスクより季節性インフルエンザにかかるリスクのほうがよほど高い。インフルエンザ対策をきちんとやれば、それは感染症に共通の対策として、新型コロナウイルスによる病気のリスクを下げることにつながります。

Q9 会社は新型ウイルスへの対策をとる必要がありますか?

会社という組織が従業員の生命と生活を守ることは当然必要。会社のために従業員の生命や生活が犠牲になるようなことは、いまの日本社会では認められません。しかし一方、会社が潰れてしまったのでは元も子もない。ですから、一時的に経済がまいったとしても事業が継続できるよう段取りを考えておくのがBCPですね。

最悪のケースを考えていくと際限がないですから、一定の線を引き、ここまでのことが起きたら何ができるかを想定して進めていくのが現実的かと思います。たとえば社員が10%休んだらどうするか、20%休んだらどうするかといった具合ですね。

新型コロナウイルスがどこまで広がるかは現時点ではわかりませんが、一定の危機を想定して対策を考えている会社は応用ができます。逆にそれがないと、ただの「騒ぎ」になってしまいますよね。

Q10 会社の業種や規模、置かれた状況によって対策は違うわけですね?

確かにそうです。ただ、いまは新型コロナウイルスの心配が勝っていますが、たとえば最近も麻疹が空港や自動車学校での発生をきっかけに流行り、重症者も出ています。風疹の合併症である先天性風疹症候群という赤ちゃんの病気も出ています。ことに接客の多い人は、ワクチンを接種しておくという対策は、本来、普通にやらないといけないんですね。

あるいは定期検診はどうでしょうか。検診を受けて初めて病気が分かることは多いですが、果たしてみなさんの会社は検診を受けやすい環境になっているかどうか、サボる人はいないか。

会社が従業員の健康を守ることは、組織を守ることと同じです。何かあったとき「大変だ」というだけでなく、これを機に、普段からできることをもう一回見直してもらいたいですね。会社のBCP担当者は従業員と組織の健康を守るためにどうしたらいいかをぜひ考えていただき、伝えていただきたいと思います。

新型インフルエンザ大流行のとき、同じウイルスが世界中で広がりましたが、欧米に比べ日本の死亡者数は最も低かった。抗インフル薬がある、医療体制が整っているといった要因もありますが、多くの人の病気に対する知識、普段の予防する行為が身に付いていることが差となってあらわれたと思います。普段からできる何気ない感染症対策が、ひいてはその人と社会を救うことにもなるのです。

 

プロフィール
岡部信彦(おかべ・のぶひこ)
1971年東京慈恵医科大学医学部卒業後、小児科医師として各地の病院に勤務。78年から米テネシー州のバンダービルト小児科感染症研究室研究員、帰国後はWHO西太平洋事務局、国立感染症研究所感染症情報センター長などを歴任。現在は川崎市健康安全研究所所長として、感染症から市民の健康と安全を守る活動を行っている。

(了)
リスク対策.com 竹内美樹