2020/02/27
ロックフェラー財団100RCに見る街づくりのポイント
このほか、ボストンの抱えるチャレンジとして、下記の点が挙げられました。
⑤健康機会の不平等
⑥教育機会の不平等
⑦老朽化する交通施設
⑧構造的な人種差別
⑧の構造的な人種差別は、全てのチャレンジの根底にある課題として捉えています。政策、各種プログラム、日々の生活、組織文化、そして人々の差別バイアスなどが複合的に影響しあって人種差別の問題を構成しています。この根源的な問題に対応するため、ボストンのレジリエント戦略の中心にはPeople(市民)が据えられました。
ボストンのレジリエント戦略4つのビジョン
ボストンのレジリエント戦略は、2030年に向けて、次の4つのビジョンを掲げました。その中心にあるのはPeople(市民)で、戦略全体としてコミュニティレジリエンスの向上を目指しています。
1)過去の教訓から学び、人々をエンパワーする都市
ボストンのチャレンジにも掲げられた、人種差別の過去の歴史をまずは認識することを第一の目的として、産官学、そして地域コミュニティーが共に人種差別を乗り越える文化を醸成する、としています。人種差別に対するコミュニティーとしての共通の理解を構築し、結果としてのソーシャルインクルージョンの向上を目指すのです。差別経験のある人のトラウマケアやメンタルヘルス向上の取り組みにも力を入れています。
2)協力的で能動的なガバナンスの構築
市の政策決定やコミュニティー作りのプロセスが人々に開かれ、多様なステークホルダーとの協働にオープンであることを常に明示し続けることを目指しています。行政内部の部門間連携にも積極的に取り組みます。
ボストンのレジリエント戦略の中心は市民であり、“コミュニティー”です。市役所の職員にも、ボストン全体が持つダイバーシティを反映させるような採用方針をとっています。市にとって最も身近なコミュニティーから、多様性を持たせオープンな文化を醸成していく考えです。
3)経済的自立の平等性担保
人種や民族的出自により、経済的自立への道が閉ざされないように、経済活動と社会活動へのアクセス機会を平等にすることを目指しています。具体的には、経済的な自立が可能な職業機会の提供、起業環境の整備、個人の資産構築・管理のサポートなどを行います。個人の資産とは、冒頭で述べた住宅を念頭においています。コンピュータやインターネットなどのデジタルツールに対するリテラシーの向上もサポートします。
ボストニアンと呼ばれる、ボストン市民の経済的自立に加えて、全ての子どもたちが教育の機会を受けることを重視しています。
4)つながりを持ち、柔軟な都市
住民コミュニティー間のつながりを強化します。住民同士のつながりが、市が提供するインフラや社会システム上に有機的に展開することで、気候変動などの長期的な課題にも柔軟に対応できる土壌になると考えています。ここでいうインフラとは、鉄道やバスなどの公共交通機関網を指しています。
住民同士、都市同士がつながりを持つことがカギ
ボストンにはMITやハーバード大学など世界トップの大学をはじめとする多数の研究機関があり、学際都市として認識されている方も多いと思います。華やかな印象の強いボストンのレジリエント戦略は、人種差別をいかに克服するか、この一点で構成されているといっても過言ではありません。「構造的な人種差別」という文言を使い、地域が抱えるさまざまな課題の根源として人種差別を捉えています。
レジリエント戦略の策定プロセスでは、PDCAサイクルにのっとり、多くの市民を巻き込むことに成功しました。また、4つのビジョンにひもづく具体的なアクションは、100RCに選ばれた他都市のレジリエント戦略からインスピレーションを得ているものが多くあります。
都市間ネットワークの良さは、課題を共有し、お互いの取り組みから学べる点です。日本国内においても同様のネットワークが育っていってほしいと思います。加えて、社会課題を構造的に捉えるボストンの試みも、参考になるでしょう。

ロックフェラー財団100RCに見る街づくりのポイントの他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/09/02
-
-
-
ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
突発的・局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ雷雨」は今シーズン、全国で約7万8000 回発生、8月中旬がピーク。民間気象会社のウェザーニューズが7月に発表した中期予想です。同社予報センターは今年も、専任チームを編成してゲリラ雷雨をリアルタイムに観測中。予測精度はいまどこまで来ているのかを聞きました。
2025/08/24
-
スギヨ、顧客の信頼を重視し代替生産せず
2024年1月に発生した能登半島地震により、大きな被害を受けた水産練製品メーカーの株式会社スギヨ(本社:石川県七尾市)。その再建を支えたのは、同社の商品を心から愛する消費者の存在だった。全国に複数の工場があり、多くの商品について代替生産に踏み切る一方、主力商品の1つ「ビタミンちくわ」に関しては「能登で生産している」という顧客の期待を重視し、あえて現地工場の再開を待つという異例の判断を下した。結果として、消費者からの強い支持を受け、ビタミンちくわは過去最高近い売り上げを記録している。一方、BCPでは大規模な地震などが想定されていないなどの課題も明らかになった。同社では今、BCPの立て直しを進めている。
2025/08/24
-
-
-
-
ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
「ゲリラ豪雨」は不確実性の高い気象現象の代表格。これを正確に捕捉しようという試みが現在、大阪・関西万博の会場で行われています。情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、大阪大学、防災科学技術研究所、Preferred Networks、エムティーアイの6者連携による実証実験。予測システムの仕組みと開発の経緯、実証実験の概要を聞きました。
2025/08/20
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方