2013/03/25
誌面情報 vol36
内閣府・日本生協連
日本生活協同組合連合会(日本生協連)は2月9日、グループにおけるサプライチェーンとの連携を重視した机上訓練を実施した。内閣府が企業のBCPの実効性を向上させることを目的に実施したもので、訓練の企画・設計は大和総研とインターリスク総研が担当した。内閣府では、年度内に今回の訓練を基に連携訓練の方法や、シナリオの作り方などを分かりやすく示した「連携訓練の手引書」を作成する。
内閣府では平成22年度から、BCPの実効性向上の取り組みを普及啓発する一環として、企業間連携訓練をモデル的に実施している。今回の訓練は3度目となる。
訓練は、2月9日に日本生活協同組合連合会(以下、日本生協連、東京都渋谷区)の会議室で行われた。参加企業は、日本生協連、日本生協連の物流を担う関連株式会社シーエックスカーゴ、首都圏の生協連合の3社。合計60人が参加した。
平時において3社間は、日本生協連のプライベート商品をシーエックスカーゴが地域の会員生協に届け、会員生協は、その商品を組合員(消費者)に配達する。一方、災害発生時には被災地に特別態勢を敷いて、緊急支援物資を早期に送り届けることを、BCPマニュアルの中で決めている。
訓練では、大規模な災害発生時に、各組織が、その役割を連携しながら達成できるかを検証することを目的に行われた。 訓練のシナリオは、東京湾北部を震源とするマグニチュード7.3の東京湾北部地震が平日の早朝5時に起きたと想定。渋谷にある日本生協連本社ビルに災害対策本部(A)を立ち上げ、埼玉県桶川には支援拠点(B)と、シーエックスカーゴの本部拠点(C)、そして被災地に近い南浦和に被災地生協対策本部の拠点(D)の4拠点が連携して、災害対応にいかに連携しながら迅速に取り組めるかを検証した。
ちなみに、災害対策本部Aと支援拠点Bは、Aが被災地の状況や被災していない生協の情報収集を行い、Bは、被災地への緊急支援物資の配送の手配を行うことで、分担している。
訓練は、本部と各拠点の連携を机上で確認するため、会議室をパーテーションで3つの空間に分け(桶川は2班を同じ空間に配置)、模擬的に災害対策本部と各拠点をA班~D班として設置し、それぞれ災害発生から2時間後と7時間後、翌日の対応の3段階に分け実施した。各班には、訓練の臨場感を高めるため、6倍速の模擬時計がスクリーンに映し出された。
参加者には、あらかじめ訓練の方法については説明したが、ライフラインの被災状況や、配送先の店舗、物流拠点の被災状況などは事前に明かさず、訓練の進行の過程で、参加者が自ら確認していく「ブラインド型」とした。事務局は、あらかじめ時間経過に応じた被災状況をシナリオの中で設定しておき、訓練の最中に、参加者がライフラインなどの被災状況を事務局に問い合わせると、「停電している」「電気が復旧した」「ガスが止まっている」「ガスが復旧した」など、状況付与カードにより参加者に提示した。これとは別に、各班には、ファシリテーターが1人ずつ配置され、他の班と連絡を取ろうとすると、そのファシリテーターが事務局を通じて、別の班へ状況を伝える方法が採られた。
2時間後の「初動訓練」
発災2時間後の訓練では、就業時間外という想定に基づき、それぞれの拠点から5キロ圏内に住む対策本部要員が現実的に集まれることを前提条件とし、最低限の人数で従業員の安否確認をはじめ、どれくらいの状況把握ができるかを検証した。
最初の状況付与としては、停電して電話も使えないことなどが伝えられた。日本生協連では、MCA無線(デジタル業務用移動通信)や衛星電話を各拠点などに配備しているが、それらを活用しながら状況把握をするという仮定で(今回の訓練では機材は活用していない)、情報収集にあたった。各本部拠点では、把握した状況を模造紙や地図上にまとめながら、何人が集まれるのか、どこの拠点が無事なのか、被災しているのかといった情報を整理していった。状況付与カードは、今回の訓練では数十枚用意したという。
7時間後の「緊急支援物資の供給訓練」
地震発生後7時間後の訓練では、実際に緊急支援物資を被災地に送り込むために、被災地周辺のより詳細な状況を把握するとともに、配送先の物流拠点の稼働状況や、物資の提供元である取引先の状況などの確認を行った。
状況付与としては、環状七号線の内側へ車が入れない、主要な橋梁が数カ所被災して通行できないなど、シナリオにさらに負荷をかけ、配送ルートの変更が組織間で共有できるかなど、連携の難易度を上げた。
翌日の「被災地外店舗の事業継続訓練」
翌日の対応については、被災していない拠点が、通常業務が継続できるよう、被災地への物資の供給に加え、被災地以外の拠点に商品をどう送り届けるかについて、情報収集と状況把握を中心に検証を行った。今回の訓練では、支援可能としている全ての商品を対象にすると大がかりになりすぎるため、レトルト米飯と水に絞って、十分な商品が集められるか、情報の共有ができたかなどを評価した。
訓練の評価項目は、22年度、23年度の訓練で出ていた課題をいかに改善できたか差分を明らかにするとともに、そのほかにどのような課題が浮かび上がったかなどの視点から10項目ほど設定した。
評価項目の例は以下の通り。
<評価例> |
さらに、訓練の最後には1時間程度のふり返りを行い、その中から、特に連携についての課題やうまくいった点などを導き出した。
ふり返りで出された課題としては、首都直下地震が発生した場合、初期段階に災害対策本部が参集できる要員の数は非常に限定的であり、代替対策本部を立ち上げた場合に同じようにサプライチェーンと連携が取れるかなどの検証すべき点が挙げられたという。また、災害対策本部と支援拠点の役割分担は、BCP上では明確に分けられていたが、参加者が十分に理解するレベルまで到達していなかったため、訓練での参加者間の情報のやり取りで一部混乱が生じたことなども指摘されたという。
日本生協連BCP対策室の武田賢治室長は「東日本大震災の経験すら風化してきているので、全体訓練だけでなく、部署単位での訓練を継続して取り組んでいく必要がある。今回の訓練を通じて感じたことは、災害対策本部に誰が駆けつけたとしても、初動対応で何をすべきかが、一目で分かるようなA4用紙1枚ぐらいのチェックシートの作成が必要なことが分かった」と話す。
評価結果や反省会で出された課題については、評価項目の結果とともにまとめ、改善できる部分は改善し、次回の訓練で再検証することにしている。
レベルに応じた連携訓練の手引書
内閣府では、今回の訓練に加え、企業におけるBCPの連携訓練について、その取り組み状況についても調査を行った。同調査事業を受託している大和総研の大村岳雄主席コンサルタントは「連携訓練については、多くの企業がその必要性を認めている一方で、ほとんどと言っていいくらい、取り組まれていないことが分かった」と説明する。
こうした状況を踏まえ、内閣府では、企業が連携訓練を行う上での手引書を年度内に作成することにしている。内閣府防災担当の筒井智士主査は「これまで連携訓練を行ったことがない企業でも取り組めるように内容を考えている。例えば時間を区切って安否確認だけ組織間連携の訓練をしてみる、災害対策本部の立ち上げだけを訓練してみる、それができたら次に災害対応を連携するなど、段階的にレベルアップしていけることが分かるものにしたい」と概要を語る。
訓練の組み立てを行ったインターリスク総研の黒住展尭主任コンサルタントは、シナリオを作る上でのポイントとして、「まずは訓練のポイントをはっきりさせることが大切。例えば、安否確認の手順を確認しておきたいのか、初動対応より事業復旧の部分を検証しておきたいのか。そこがはっきりしてくると、どのような場面を設定して訓練すべきなのかが見えてくる。全体の概略が決まれば、あとはそこに細かい状況設定を加えていけばいい」とアドバイスする。
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