2017/06/20
災害から命を守れ ~市民・従業員のためのファーストレスポンダー教育~
■ゾーニング

最後に、参考までにプロのレスポンダーが現場で行う初動の流れを簡単に説明する。市民レベルでもプロの初動での活動プロセスを理解することにより、間接的ではあるが相互連携していることになるのだ。
プロはまず、風上から接近し現場の適切な場所に現場指揮本部を設置する。次に状況把握のため情報収集を行い、消防警戒区域を定め、その中で適切なゾーニングを行う。
最も危険な発災地点の周辺を“ホットゾーン”として危険区域と定め、特別に訓練された者以外は進入することができないエリアとして隔離する。そして要救助者やレスポンダー自身のための除染活動を行う区域を“ウォームゾーン”とし、大量除染システムを設営したり、技術除染を行うエリアとして区分する。
そして消防警戒区域の一番外側に置かれる救護所や指揮本部を設置する区域をコールドゾーンとして区分する。消防活動の基本隊形を確立することがゾーニングの意味だ。
ホットゾーンとウォームゾーン内は化学防護服や陽圧式化学防護服などの個人防護衣を着用して活動するエリアになる。ウォームゾーンとコールドゾーンの境界線では、汚染レベルのモニタリングを行い、完全に汚染除去が確認された後にコールドゾーンへ移動することが可能になる。
ゾーニングが完了したら即座に除染体制の確立作業に入るわけだが、彼らが現着し除染体制が完了するまでには、ある程度のタイムラグが当然出てくる。その間に汚染された要救助者がむやみに現場を離れ、汚染を拡大・連鎖すれば、それだけゾーニングを広げなければならず、救助活動やその他あらゆる活動に支障をきたすことになる。
前述の防護行動の中で説明したが、なぜむやみに現場を離れずその場に留まらなければならないのかご理解頂けただろうか?
【おわりに】
前回と今回の連載では一般市民・従業員(政令等で特別に定められた危険物質を取り扱う事業者以外の)として危険物・テロ災害について学ぶべき最低限の知識を解説した。
すでに読者の皆様は、このような災害に巻き込まれても、的確な防護行動を取り、自分と家族または会社の同僚を守るためアクションを実践していただけると思う。
また、万が一そのような現場の第一発見者になったとしても、テロ災害の徴候を見抜いて、消防や警察に的確な通報ができるようになったはずだ。
さて、2003年6月に成立した「武力攻撃事態対処法」その翌年に成立した、「国民保護法」をきっかけに我が国のテロ対策もようやくその形を持つことになり、2015年9月には新たに国民保護法も改訂されオリンピック・パラリンピックに向けた準備が着々と進行しているが、一体どれほどの国民がそれらを自覚し危機感を抱いているのだろうか。
欧米諸国での取り組みを簡単に紹介するが、米国国防省下の消防組織では初任科課程に入る前に前述したNFPA472の入門編である“アウェアネスレベル”と限定された防護活動だけが許される初動対応編の“オペレーションレベル”を終了しなければ消防士としての認証が取得できない仕組みになっている。
またその他にも、対応する要員の能力適正基準を上級編の“テクニシャンレベル”、危険物テロ災害の現場指揮官としての“ハズマット・インシデント・コマンダー”、輸送中の事故に対応するトランスポーテーションスペシャリストなど12の専門職に分類し教育訓練を実施している。
それに加えて自主防災組織(CERT)向けの教育プログラムの中でも危険物・テロ災害対応に対する教育訓練などの啓蒙活動が実施されている。
また、ドイツでは「危機管理・緊急計画・市民保護学院」が連邦政府管轄で運営されおり、年間約1万人の警察官・消防士・赤十字職員らがCBRNE災害※1や指揮広報などの専門知識を学び、訓練を受けている。
2012年に開催されたロンドンオリンピックでは、イギリス政府が安全確保作戦のために880億円の予算を投入した。サッカーのワールドカップでは850億円だ。
日本では、元陸上自衛隊化学学校の校長を務められた現NPO法人NBCR対策推進機構の井上忠雄理事長が10年前からこのNPO法人でCBRNE対応に関する教育訓練を積極的に展開しており、徐々にではあるがあらゆる団体へ広がりをみせ始めている。
また最近では放射線医学総合研究所(通称、放医研)でもCR災害に関する教育研修が始まっている。2014年7月に出された総務省消防庁の「消防団を中核とした地域防災力の充実強化の在り方に関する中間答申」の中でも、NBCテロ災害に係る教育訓練について指標に盛り込むべきだと言及されていることは評価に値する。あとはどうやって命を吹き込むかだ。
いずれにせよ、東京オリンピック・パラリンピックまであと3年しかない。すでに秒読み段階と言っていいだろう。この限られた期間内で行政をはじめ、テロのターゲットになりやすい施設の事業者から一般市民までを対象に危険物・テロ災害対応に対する正しい教育と訓練を拡散し、準備を始めるのが喫緊の課題であることを提言としてこの章のまとめとしたい。
次号では、これから日本が向かうべき防災・危機管理の姿について論評し、いよいよ本連載の最終章とする。
※1…CBRNE(シーバーン)災害:化学(Chemical)・生物(Biological)・放射性物質(Radiological)・核(Nuclear)・爆発物(Explosive)らによって発生した災害のこと。
(了)
参考文献
•総務省消防庁2014年7月付「消防団を中核とした地域防災力の充実強化の在り方に関する中間答申」
•生物化学テロ災害時における消防機関が行う活動マニュアル、・東京法令出版
•NFPA472(National Fire Protection Association)Standard for Competence of Responders to Hazardous Materials/Weapons of Mass Destruction Incidents
•オクラホマ州立大学 消防業務エッセンシャルズ 第6改訂版
•米国運輸省Emergency Response Guidebook(緊急時応急措置指針)
•危険物・テロ災害初動対応ガイドブック
•COMMUNITY EMERGENCY RESPONSE TEAM.Basic Training Instructor Guide.FEMA.DHS
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