2020/05/19
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
サイバーセキュリティ―戦略の見直し
これに続くセクションである「3. The technical considerations (技術的な考慮事項)」では、ITに関して考慮すべき事項が、次のように説明された上で、対策の準備状況を尋ねた結果が示されている。
- IT機器をオフィスに再度持ち込む際のポリシーを明確にする
- 遠隔地や自宅からデータを取得する際のルールを明確にする
- 管理されていない機器や私物のスマートフォンなど(注4)に保管されているデータを削除する方法を明確に説明する
- サイバーセキュリティーに関する説明やトレーニング計画を準備する
- 情報セキュリティーマネジメントシステム(ISMS)や事業継続マネジメントシステム(BCMS)を更新し、それを認証機関に説明する
- サイバーセキュリティー戦略を見直し、インサイダー(内部者)の脅威も含めて、実施すべき対策は確実に全て実施する
対策状況に関する回答結果については、図が大き過ぎて本稿に掲載できないため、図を省略させていただく。筆者が注目した点は次の通りであるが、上に列挙した対策の実施状況全体を見ていただく方がよいと思われるので、報告書本文をダウンロードしてご覧になることをお勧めしたい。
- 回答者の8割以上が、サイバーセキュリティーに関する説明やトレーニング計画を準備すると回答している
- 回答者の半数以上がサイバーセキュリティー戦略を見直すと回答しており、4分の1近くがこれを準備中だと回答している
- 管理されていない機器や私物のスマートフォンなどに保管されているデータを削除する方法を明確に説明するという回答は 4割弱にとどまっており、回答者の3割近くはこれを実施しないと回答している
日本と欧州とでは新型コロナウイルス感染者の発生状況や政府の施策などが大きく異なるが、これから業務再開や通常業務体制への復帰に臨む企業にとっては、本報告書の結果から考えさせられる部分もあるのではないだろうか。全世界的なパンデミックの発生という、誰もが経験したことのないような事態に直面し、日本企業だけでなく多くの組織が試行錯誤しながら最善の道を見つけようとしている。このような状況において、本報告書のような資料を通して他の組織の活動状況を知ることができるのは有益であろう。自らの経験を共有してくださった回答者の方々に感謝するとともに、これが少しでも読者の皆さまのお役に立てばと思う。
■ 報告書本文の入手先(PDF 12ページ/約3.1MB)
https://fortressas.com/market-report-planning-the-return-to-the-office/
注1)調査対象については具体的に言及されておらず、「we surveyed 100 business continuity, risk and resilience professionals」という記述にとどまっている。恐らく英国を始め欧州の、同社の顧客などを中心に調査されたものと推測される。
注2)BCIによる調査結果については、それぞれ次の通り紹介させていただいた。
第93回:海外企業における新型コロナウイルスへの対応状況
BCI / Coronavirus Organizational Preparedness
https://www.risktaisaku.com/articles/-/27124
第95回:海外企業における新型コロナウイルスへの対応状況【続報】
BCI / Coronavirus Organizational Preparedness 2nd Edition
https://www.risktaisaku.com/articles/-/28441
第97回:海外企業における新型コロナウイルスへの対応状況【第3報】
BCI / Coronavirus Organizational Preparedness 3rd Edition
https://www.risktaisaku.com/articles/-/29855
第99回:海外企業における新型コロナウイルスへの対応状況【第4報】
BCI / Coronavirus Organizational Preparedness 4th Edition
https://www.risktaisaku.com/articles/-/31463
注3)グラフに示されている値を合計すると100%を超えるが、複数回答を認めるような設問ではないので、 グラフのバーか目盛りに誤りがあると思われる。ちなみに報告書本文には「Very likely」と「Likely」とを合わせて80% 以上あると記述されている。
注4)本文中では「destruction of Data on uncontrolled/BYOD devices」と記述されている。ここでBYOD とはBring Your Own Devicesの略で、私物のスマートフォンなどを業務に利用させることを指す。
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!の他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方