2020/07/07
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
上位を占めるサイバー関連リスク
まず、サイバーセキュリティーやITに関するリスク(紫色)については、新型コロナウイルスの影響でリモートワークや在宅勤務が急増したことで、これらのリスクに対する脆弱性が増加したことが、報告書本文で指摘されている。また、2017年に発生したマルウェア「NotPetya」による被害が世界規模で拡大したことや、EUのGDPRや中国のサイバーセキュリティー法などデジタルデータに関連する各国での規制が増えたことなど、世界規模での情報セキュリティー対策において考慮すべき観点が幅広く解説されている。
本連載でこれまでに紹介してきたさまざまな調査報告書においても、サイバー攻撃や情報セキュリティーに関するリスクが最も懸念されていることが示されてきたが(注2)、本調査においても上位10位のうち4つをサイバーセキュリティーやITに関するリスクが占めていることから、この傾向は変わらないようである。
また地政学的リスク(赤色)については、図の上半分(本稿のトップに掲載された図)においては存在感が若干薄いように思われるかもしれないが、地政学的リスクはさまざまな分野のリスクと相互に関連していることに常に留意する必要があることが指摘されている。図2は地政学的リスクを分析するために、本報告書で「6つのレンズ」と表現されている観点と、それぞれに関連する事例である。
また、新型コロナウイルスが地政学的リスクに影響を与えた例として、初期段階で感染者が急増したイタリアにおける世論調査が紹介されている。この調査では回答者の 88% が、EUは感染症対策に失敗したと回答しており、これがEU懐疑論に関する新たな波を生むのではないかと指摘されている。
本報告書はあくまでも、リスクに関する大きな潮流をつかもうとする観点でまとめられているのに対して、新型コロナウイルスのパンデミックは恐らく個別事象と位置づけられると思われるため、独立した項目としては扱われていない。しかしながら、このように各カテゴリー別の分析において、さまざまな観点から新型コロナウイルスの影響が反映されており、このパンデミックが世界に与えた影響の大きさを、改めて再認識させられる。
本稿では記述を割愛させていただくが、「ガバナンスや法規制」「信頼やレピュテーション」「気候変動および環境」の各カテゴリーについても個別のセクションを設けて解説されている。しかも、「気候変動および環境」以外のカテゴリーについては次の通り各社と共同での執筆となっており、より幅広い情報や知見を取り入れた解説が行われていると考えられる。
- サイバーセキュリティーおよびIT:Control Risks
- 地政学的リスク:Willis Towers Watson
- ガバナンスや法規制:AIG
- 信頼やレピュテーション:KPMG
本報告書ではこれらの解説に続いて、今後予想される変化や、保険業界に対する提言がまとめられているので、特に保険業界の方々にとっても有益ではないかと思われる。世界的なリスクの潮流をつかむことに加えて、海外(本報告書に関しては特に英国)の保険会社や企業のリスクマネジャーの考え方や問題意識を知るという意味も含めて、価値のある報告書であろう。
■ 報告書本文の入手先(PDF 52ページ/約3.7MB)
https://www.airmic.com/technical/library/top-risks-and-megatrends-2020
注1)Airmic とは「Association of Insurance and Risk Managers in Industry and Commerce」の略であり、英国を本拠地としている。https://www.airmic.com/
注2)例えばBCIがBSIと共同で毎年実施している「Horizon Scan」という調査(下記)でも、事業継続関係者が最も懸念しているのはサイバー攻撃と情報漏えいである。これ以外の複数の調査機関による報告書でも、サイバー攻撃や情報漏えいが特に懸念されているという結果が示されている。
第92回:世界のBCM関係者の懸念は2020年もやはりサイバー攻撃
BCI / Horizon Scan Report 2020
https://www.risktaisaku.com/articles/-/25826(2020年3月10日掲載)
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!の他の記事
おすすめ記事
-
-
-
防災は面白くないと広がらない
地震が起きたとき、スマートフォンに通知された情報を頼りに避難を判断することが多いだろう。緊急地震速報の情報から、いまどのように動くべきかを判断できる、そんな身近な危機管理を習慣づけた1 社が、アールシーソリューション(東京都新宿区)だ。2010 年に提供開始したスマートフォンアプリ「ゆれくるコール」は、緊急地震速報を受信できるアプリとして多くのユーザーが利用している。代表取締役の栗山章さんは、数多くのユーザーに防災の重要性を広めてきた一方で、ビジネスとして成り立たせる難しさにも直面してきたという。これまでのサービス開発の経緯や、防災ビジネスへの価値観を聞いた。
2026/09/09
-
被災施設への再入場判断「戻ってはいけない」では解決しない避難後の問題
大地震が発生し、安全な場所へ避難して一息つくと、人々には「ひとまず危険のピークは過ぎた」という根拠なき安心感が芽生える。そして、さまざまな理由で「避難してきた場所に戻りたい」といった気持ちが生じる。しかし、被害がどの程度なら戻ってよいのかについての明確なルールや事例は、どこを探してもあまり見当たらない。 国には応急危険度判定という仕組みや、施設管理者が建物を緊急点検するための指針などもある。が、これらは避難直後の「戻りたいニーズ」に応える仕組みではない。ここに、避難直後の「再入場」という古くて新しい問題がある
2026/09/09
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2026/09/08
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2026/09/07
-
-
-
暗黙知を形式知へ、10年の徹底改善が生きた
熊本市の工務店・新産住拓株式会社(小山英文社長)は、2016年の熊本地震や近年相次ぐ豪雨災害を通じて災害対応を磨き上げてきた。発生当日は、約3割の社員が定休日で社長も不在という条件下にもかかわらず、地震発生から50分で社員の安否確認をおおむね完了し、2時間後にはホームページや顧客専用サイトで被害受付を開始した。
2026/08/24
-





※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方