2020/09/10
防災・BCPお役立ち製品・サービス
自然災害が多頻度・広域・激甚化する近年、平時からの備えとなる「保存食」の製品展開は、保存期間の長さや栄養といった基礎的な条件に加え、実際に食事をとる被災者の多様さや健康状態への考慮、さらに食事としての美味しさ・楽しさ、SDGsといった企業価値まで含めた多様な製品開発の動きが見られる。ここでは、異なる特徴を備えた5つの保存食製品を紹介する。
3.11の極限状態を教訓に生まれた防災ゼリー『LIFE STOCK』
「つくる力と、守る力で、命を豊かにする」をコンセプトに、宮城県を中心に食文化創造事業と防災・備蓄事業を行うワンテーブルは、東日本大震災の経験から「あのとき、ほんとうに欲しかったもの」を追求し続け、ゼリー型の新しい備蓄食「LIFE STOCK」を開発した。今年9月1日、クラウドファンディングサイトMakuakeを通じて発売した。
防災ゼリー「LIFE STOCK」は、災害が起こった「あと」も続く被災地の人々の暮らしで求められた「水なしで食べられる栄養価の高いもの」を念頭に、同社が研究と検証を重ねて開発したもの。水が不足する震災直後、“水を必要とする備蓄食しかない”“口に入れると喉が渇いてしまう”という課題を解決する。また、炭水化物の食べ過ぎによる「震災太り」問題に対しても取り組み、栄養バランスも考慮した。
同製品は、無菌充填技術、アルミを含む4層構造のフィルム、レシピコントロール技術の3つの技術を組み合わせることで5年半以上の常温保存を実現。パッケージは摂取の容易さを考慮したほか、狭いスペースでも豊富に備蓄できるコンパクトなデザインとした。
製品ラインナップは、災害直後にエネルギーを補給できる『エナジータイプ』(1個あたり202キロカロリー)と、食物繊維・濃縮りんご果汁・ニンジンエキスを含み、避難所滞在中に不足しがちな栄養素を補給する『バランスタイプ』の栄養タイプ2種類を展開。『エナジータイプ』は「ぶどう味」と「洋梨(ペアー)味」、『バランスタイプ』は「アップル&キャロット味」となる。価格は、『エナジータイプ』5個入りが2000円(送料込・税込)、『バランスタイプ』9個入りが2000円(同)など。
そのほか、同社は、宇宙空間と災害時における食に関する共通課題に着目し、新しい防災・宇宙産業を創出する宇宙航空研究開発機構(JAXA)との「BOSAI SPACE FOOD PROJECT(BSFP)」にも取り組んでいる。
アレルゲンフリー&賞味期間5年6カ月の「えいようかん」
三重県津市の井村屋が販売する「えいようかんシリーズ」は、シンプルな素材で、カロリーも適度にある「ようかん」を非常食として活用したもので、災害時の疲れた身体と心に栄養を取ってもらえるよう開発。2008年の発売からシリーズ累計約3000万本を売り上げる。
近年の防災意識の高まりから、非常食・保存食が多数発売される一方で、食物アレルギーに対応した商品がまだ少ないという背景から、同社では「えいようかん」の原材料や配合を見直し、賞味期間を従来の3年6カ月から5年6カ月に長期化、さらにアレルゲン特定原材料28品目不使用を実現した。
「えいようかん」は、適度にやわらかく、すっきりとした甘さのため、水がなくてもそのまま食べられる。手軽に持ち運びができ、適度にカロリーがあるため、登山等のアウトドアや、サイクリング等のスポーツシーンでの活用も可能。パッケージには、暗闇でも見つけやすいホログラム加工の「マル備」マークや、暗所でも開封しやすい開け口、誰でも中身が分かるユニバ―サルデザインといった工夫をこらす。さらに、表面には点字で「ヨウカン口数5本入り」と表記し、裏面には災害伝言ダイヤル「171」を表記した。箱上部のQRコードからは「えいようかん」の食べ方の英訳説明も表示できるようにした。
「えいようかん」/「チョコえいようかん」は、内容量が1本あたり60グラム/55グラム、カロリーが1本あたり171キロカロリー/197キロカロリー、希望小売価格(税抜)が5本入り550円/650円。
要配慮者対応の備蓄用栄養補給スープ「ライフスープ」
マタニティ⾷品および災害⾷の企画・販売・海外輸出を手がけるベジタルは、実際の被災者の声を集め、0歳〜100歳まで誰もが食べられる「スープ」に着目して商品化した、野菜コンソメ味の備蓄用栄養補給スープ「ライフスープ」を販売する。
同製品は、被災者の栄養バランスを整え、健康を維持することを目的とした粉末スープタイプの栄養機能食品で、健康維持に必要な11種類のビタミン、2種類のミネラルを配合。アレルギー特定原材料等28品目不使用、化学調味料等不使用のため、要配慮者でも安心して摂取できる。省スペース、軽量で5年間の長期保存が可能。調理は、個包装を開封し、中身の粉末をカップにあけ、熱湯を注いでかき混ぜて約1分で完了する。
同製品は、前橋市の新製品開発補助金を利用し、ベジタル、前橋工科大学 食品機能開発工学研究室・本間知夫教授との産官学連携で開発。今年8月には、一般社団法人防災安全協会が主催する防災製品等推奨品審査会で、災害時に有効に活用でき安全と認められる「防災製品等推奨品」に認証された。
ご飯の缶詰「戦闘食糧 飯缶シリーズ」
ジェー・ガーバー商会とハースは、非常用保存食やアウトドア、普段の食卓でも手軽に美味しい食事が楽しめるご飯の缶詰“戦闘食糧 飯缶シリーズ”を販売する。常温保存でき、携帯性に優れることから“ミリメシ”(戦闘糧食)を意識したデザインを採用したもの。賞味期限は製造から3年。ラインナップは、「豚角煮丼」、「チキンドライカレー」、「ガーリック焼き鶏丼」の3種類を用意する。
「豚角煮丼」は、長崎伝統しっぽく料理のレシピを使い、とろとろに煮込んだ三枚肉とうま味あふれる煮汁で九州産ヒノヒカリ米を炊き上げた豚角煮ごはん。「チキンドライカレー」は、香ばしく直火いた国産鶏肉とビーフエキス入りカレールー、九州産ヒノヒカリ米を炊き上げたドライカレー。「ガーリック焼き鶏丼」は、香ばしく直火で焼いた国産鶏肉とガーリックを効かせた醤油ダレを九州産ヒノヒカリ米と一緒に炊き上げたガーリック味の焼鳥ごはん。
同製品は、非常用保存食としての備蓄だけでなく、“ゴロっとお肉の入ったご飯の缶詰”として、アウトドアや、丼ぶり・オムライスなどのアレンジを加えて日々の食事としても楽しめる。
内容量は3種類とも1缶あたり165グラム。価格は6缶セットで2980円(送料込/税込)。
国産のコオロギを粉末にし、3%配合した備蓄用缶詰パン
地域や大学に眠る資源の活用を進める大学シーズ研究所は、国産のコオロギを粉末にし、3%配合した備蓄用缶詰パン「Cricket Bread(コオロギパン) made in Japan」を販売する。5年間の長期保存が可能で、災害時の備蓄食としてはもちろん、朝食などに加えることで良質なタンパク質を手軽に摂取できる。
同製品は、焼きたて風味のやわらかい「缶入パン(チョコチップ味)」。フリーズドライした国産コオロギパウダーを3%(100グラムで約30匹分)配合する。日本国内の完全室内環境下で飼育されている食用としてのコオロギのみを使用する。
コオロギは、高タンパク質、低糖質、ビタミンやミネラルも含まれる栄養価の高い食材であり、飼育時に水を必要とせず、二酸化炭素をほとんど排出しない地球にも優しいスーパーフードとして、ヨーロッパやアメリカでも注目され始めている。同社では、地震などの被災地域でタンパク質を摂取できない場合の防災用食品として、同製品の活用を提案する。
そのほか、同社では、パン・アキモトとの共同運営で、37カ月の長期保存が可能な防災用備蓄パンを2年間の備蓄期間後に回収し、NGO等を通じて世界の食糧難の地域へ届ける国際食料支援プロジェクト「救缶鳥プロジェクト」を展開。また、同じ備蓄パンから、地元徳島の食用藍を取り入れた「阿波藍のパンの缶詰 made in Japan」も販売するなど、SDGsの課題に対応したプロジェクトを続けている。
「Cricket Bread(コオロギパン) made in Japan」は、内容量が1缶あたり100グラム。価格が6缶入りで3888円。「阿波藍のパンの缶詰 made in Japan」は、内容量が1缶あたり100グラム。価格が6缶入りで4536円。
防災・BCPお役立ち製品・サービスの他の記事
- 空気清浄・消毒で企業のBCPを支えるコロナ対策新製品
- 冬場の熱源確保や保温に欠かせない熱関連製品
- 復旧・避難時に頼りになる電力系製品
- 長期保存だけじゃない、多様化する保存食製品
おすすめ記事
-
「自分の安全は自分で」企業に寄り添いサポート
海外赴任者・出張者のインシデントに一企業が単独で対応するのは簡単ではありません。昨今、世界中のネットワークを使って一連の対応を援助するアシスタンスサービスのニーズが急上昇しています。ヨーロッパ・アシスタンス・ジャパンの森紀俊社長に、最近のニーズ変化と今後の展開を聞きました。
2025/08/16
-
-
白山のBCPが企業成長を導く
2024年1月1日に発生した能登半島地震で震度7を観測した石川県志賀町にある株式会社白山の石川工場は、深刻な被害を受けながらも、3カ月で完全復旧を実現した。迅速な対応を支えたのは、人を中心に据える「ヒト・セントリック経営」と、現場に委ねられた判断力、そして、地元建設会社との信頼関係の積み重ねだった。同社は現在、埼玉に新たな工場を建設するなどBCPと経営効率化のさらなる一体化に取り組みはじめている。
2025/08/11
-
三協立山が挑む 競争力を固守するためのBCP
2024年元日に発生した能登半島地震で被災した三協立山株式会社。同社は富山県内に多数の生産拠点を集中させる一方、販売網は全国に広がっており、製品の供給遅れは取引先との信頼関係に影響しかねない構造にあった。震災の経験を通じて、同社では、復旧のスピードと、技術者の必要性を認識。現在、被災時の目標復旧時間の目安を1カ月と設定するとともに、取引先が被災しても、即座に必要な技術者を派遣できる体制づくりを進めている。
2025/08/11
-
アイシン軽金属が能登半島地震で得た教訓と、グループ全体への実装プロセス
2024年1月1日に発生した能登半島地震で、震度5強の揺れに見舞われた自動車用アルミ部品メーカー・アイシン軽金属(富山県射水市)。同社は、大手自動車部品メーカーである「アイシングループ」の一員として、これまでグループ全体で培ってきた震災経験と教訓を災害対策に生かし、防災・事業継続の両面で体制強化を進めてきた。能登半島地震の被災を経て、現在、同社はどのような新たな取り組みを展開しているのか――。
2025/08/11
-
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/08/05
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/08/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方