リスクマップ2026

リスク・セキュリティコンサルティングサービスを提供する「コントロール・リスクス」(本社:英国)はこのほど、2026年の世界のビジネスリスクを示す「リスクマップ2026」を公表した。世界30カ国以上の専門家の知見・洞察を持ち寄って分析を行い、2026年における各国のビジネスリスク見通しを総合的に評価し世界地図に反映したもの。また、2026年に企業が特に注視が必要な5つのトップリスクも提示した。

リスクマップ2026では、11カ国でビジネスリスクが低下した一方で、16カ国でビジネスリスクが上昇。政治リスク、セキュリティリスク、規制リスクの増加が影響したとしている。また、政情不安の高まり、安全保障上の脅威、規制の変動などにより、世界全体ではリスクは上昇傾向にあるとした。

トップリスクのキーワードは「新たなルールは『ノールール』」「アクティビスト化する社会」「AIとコンピューティング能力の競争激化」「組織犯罪ネットワークの拡大」「正常化のわな」。昨年版は、トランプ大統領の新政権発足などに絡み、地政学的な対立を前面に挙げたが、2026年は不確実性や不安定さを強調した内容になっている。

トップリスクに関するレポートでは、「2026年は、ボラティリティ(変動)が日常化し、世界的な組織犯罪が増加し続け、AIコンピューティング能力をめぐる競争が加速化し、新たな世界秩序が形作られる」との見解でまとめている。また、コントロール・リスクスCEOのNick Allan氏による「企業にとって2025年は、地政学的・経済的ショックを乗り切り、企業戦略を再構築し、戦術的レジリエンスを構築する一年だった。この経験と備えは、これからの一年間で計り知れない価値を持つ」とのコメントを紹介した。

以下は、トップリスクに関する同社リリースより。

<2026年のトップリスク>

• 新たなルールは「ノールール」(The New Rules – No Rules World)

2026年、企業は既存の国際ルールが崩壊する不安定な世界に直面するでしょう。各国は保護主義、領土侵略、取引外交のための多国間枠組みを放棄しつつある一方、テクノロジー企業からテロリスト集団に至るまで「非国家主体」がますます世界の力学を形成しています。古いルールに基づく秩序は、国境を越えた紛争、サイバー攻撃、先制攻撃、貿易戦争の増加を特徴とする「まったくルールのない」状態に変わりつつあります。また、民主主義の後退と正当性のギャップが不安定性を悪化させています。企業は、常にルールなどの境界を試されることや判断ミス、価値観よりも利害が優先されるといった予測不可能で不安定な環境に備える必要があります。今や、ボラティリティ(変動)こそが新たな標準です。

• アクティビスト化する社会 (The Rise of Activated Societies)

2026年には、あらゆる世代が不平等と不正義に憤り、社会はより予測不可能で不安定な状態になるでしょう。世界中で増加する反政府抗議運動は、経済的な不安定さと崩壊した社会システムに対する不満の高まりを示しています。アクティビスト化した社会は、社会システムの見直しを求め、迅速な結果を期待しています。変化が遅すぎると、彼らは攻撃的で暴力的な行動を起こします。2026年は、事前の警告なしに暴動が起こり、従来のリスク評価では太刀打ちできないようなスピードでより激しい不安をもたらすでしょう。こういった環境下において企業が成功するには、リアルタイムでの脅威モニタリング、アジャイルな危機管理計画が重要です。また、これまで安定していた国や地域であっても市民の感情を理解する必要があります。

• AIとコンピューティング能力の競争激化 (The AI Compute Contest)

2026年に注視すべきデジタルリスクは、「コンピューティング能力」つまり処理能力、エネルギー、ITインフラが一箇所に集中してしまうことにあります。最先端のAIモデルを動かすにはコンピューティング能力が必要です。また、コンピューティング能力を確保し、安全に利用できるかが、誰が競争に参加できるかを左右します。輸出規制によって高性能な半導体チップや製造技術へのアクセスに段階的な格差が生まれました。その結果、コンピューティング能力が外交政策の一部になっています。企業はコストの上昇、サプライチェーンの混乱、世界的なAIパフォーマンスのばらつきなどの課題に直面しています。AIインフラを標的とするサイバー脅威はエスカレートしており、サードパーティとの依存関係は脆弱性を露呈しています。さらに、電力、水、送電網の容量といった物理的な制約が、この問題にさらなる圧力を加えるでしょう。

• 組織犯罪ネットワークの拡大 (The Growing Web of Organised Crime)

2026年の組織犯罪は、地政学的な競争、紛争、サプライチェーンの混乱を利用したり、新興テクノロジーを巧みに駆使したりして活動範囲を拡大し、新たな国や地域にも影響を及ぼすでしょう。合法・非合法を問わず、麻薬、偽造品、重要鉱物、エネルギーといったグローバル市場が急成長しています。 その結果、犯罪集団の野心はさらに煽られます。彼らは政府に挑戦し、国境を越えた巨大な犯罪組織を構築しようと目論むでしょう。組織犯罪は、デジタルと物理の両面で直接的な脅威をもたらし、ビジネス環境の健全性(インテグリティ)を損なうことにつながります。これに対し各国政府は、非常事態宣言、治外法権行動、より広範な制裁やテロ組織指定などをもって対応するでしょう。

• 正常化のわな (Normalisation Trap)

2026年最も危険なことは、異常なリスクを「普通のもの」として捉え、対処することです。地政学的な変動、紛争の激化、異常気象、インフラ障害は常態化しつつありますが、依然として深刻な影響を及ぼします。企業は「ワイルドカード(予測できない異常事態)」が頻発することでショックに鈍感になってしまうリスクがあります。企業は、これらを一時的な混乱としてではなく恒常的な変化として捉え、リスクマネジメントを進化させる必要があります。AI への仕事の置き換え、紛争、社会政策などの問題をめぐる意見の対立は、組織内でコラボレーションが重要な際にチームを分断します。2026 年に企業が成功するには、安定しているという前提を手放し、信じがたいようなシナリオに備えることです。そして、分断が深まる中で「信頼」「コミュニケーション」「多様な視点」を尊重した文化を組織内に構築する必要があります。

最新の分析・評価を反映した「リスクマップ2026」は、下記よりダウンロードできる。
https://www.controlrisks.com/jp/riskmap/maps