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われわれにとってどのような未来が望ましいのか、将来どのような社会にしてゆきたいのか、といった視点は社会課題の解決を考える際の起点となる。そして、今後の社会のあり様を描き、社会の進むべき方向性を明らかにしてゆく役割は、社会の構成員全員(国家、政治、企業、市民など)が担っている。また、具体的な課題解決においては、構成員全員がそれぞれの役割や機能を果たしてゆかねばならない。

現代社会の諸課題は、社会システムが持つ自然システムや経済システムなどとの相互関係性の中から生まれている。この意味では、今後の企業活動は企業と社会との関係性を抜きには考えられない。企業は、自社の活動が社会へ与える影響や社会への依存性を意識し、社会の一員として、社会の発展と企業の発展を同期させてゆく必要がある。企業の社会的責任論やサステナブル経営論の文脈において、社会課題のビジネス化は、具体的な対応課題の一つとして浮上しており、避けて通れない論点と位置付けられよう。

企業の機能・役割の再整理

企業が営利企業である以上、その基本目的を利潤の最大化に置くことに変わりはない。また、経営者が株主の拠出した資本を効果的に活用し最大化するといったミッションを有することも変わらない。しかし、企業活動は株主だけでなく多様なステークホルダーによって支えられ、企業の社会市民としての存在が強く意識されている。

サステナブル経営は、企業が依存関係の深い社会の中で存在意義を発揮し、社会の発展と企業の経済的発展の両立を目指す経営といえよう。その具体的な対応策については、社会から企業に対して何が求められているのか、各企業にどのような対応が可能なのか、を再整理する中で明らかになる。株主利益至上主義、短期的経済価値拡大主義といったこれまでの視点から、社会的価値との両立、中長期的視点に立った持続的成長といった視点を取り入れてゆかなければならない。企業として、気候変動問題を含む環境問題、貧困・人権問題といった社会課題への対応を実際の事業活動と関連づけ、どのような形でその解決へ貢献するのか、そして中長期的視点から継続的な企業価値創造の枠組み作りを進めてゆくのか、企業の能動的な対応が求められている。

このような変化を前提にしたとき、経営にとって直接コントロールできない領域の拡大とその結果としての不確実性の高まりを認識せざるをえない。そして、価値創造への道筋を再定義する必要性にかられるはずである。換言すれば、企業がこれまでその思考の中心としてきた市場メカニズムの「外部性」に属する要素による影響が拡大していることとなる。従来の財務要素中心の経営管理では対応しきれない状況となっている。しかしながら、あらゆる外部性に際限なく応答する責任を引き受けることは現実的ではない。外部性への対応には、企業の中長期的な持続可能性と短期的な事業継続性とのバランスが必要となる。なぜなら、中長期的な理想に向かって取り組んだ結果、短期的に破綻してしまっては、本来の目的を達成できないからである。市場メカニズムに密接にかかわる財務資本にのみでなく、活用可能な資本概念を拡大し、戦略推進の時間軸を長くとる必要があろう。そして、社会的価値の向上と経済的価値の両立を能動的に進めてゆくためには、「社会課題のビジネス化」を経営課題として位置づけ、将来の事業ポートフォリオへの組み込みを検討しなければなるまい。