AIや半導体を中心にした米中の技術覇権の争いは今後も続く(Adobe Stock)

世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。

――なぜ、経済安全保障の必要性が高まっているのでしょうか。

電通総研経済安全保障研究センター
副センター長 伊藤 隆氏 (いとう・たかし)  2020年、民間企業で初めて設置された三菱電機の経済安全保障統括室の室長に就任。2023年に執行役員に就任。2025年に退任し、現職。FRONTEOなど 複数の企業で顧問などを務める。

企業が各国の法規制や経済制裁に臨機応変に対応しなければ、事業継続が危ぶまれる時代になっているからです。2020年10月に三菱電機が日本企業初の経済安全保障の専門部門を設置した理由は、2019年の米国国防権限法がきっかけです。この法律により対中輸出が制限され、中国ビジネスで打撃を受けることが想定されました。米国の狙いは中国への技術流出の封じ込め。技術覇権を巡る米中の対立に、企業も巻き込まれる構図です。

サプライチェーンはグローバル化していますが、各国は自国優先の傾向を強めています。もはやそれぞれの国の動向を「注視するだけ」では不十分で、行動を伴うリスクマネジメントが急務となっています。

――経済安全保障に取り組むにはどうすればよいのでしょうか。
まず国際情勢への理解が不可欠です。しかし企業にとって本質的に重要なのは、各国の規制が「自社にどう影響するか」という視点で考えること。担当者がただ知識を蓄積するだけでは役に立ちません。法規制の影響を自社事業に当てはめ、定量的に社内に示すことが必要です。

情報収集では、1次情報として各国政府やその機関からの発信、2次情報は日経新聞やフィナンシャル・タイムズといったクオリティペーパーが中心となります。政府機関への直接の確認なども実施してきましたが、基本はオープンソース情報の収集と分析になります。