第9回 ビジネスには「4つの未来」が潜在する
リスク管理責任者はどう対応すればよいか?
鈴木 英夫
慶應義塾大学経済学部卒業。民族系石油会社で、法務部門・ロンドン支店長代行・本社財務課長など(東京・ロンドン)。外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務め、危機管理広報・リスクマネジメントを担当(大阪)。現在は、GRC研究所代表・研究主幹、リスクマネジメント&コンプライアンス・コンサルタント(兵庫)。日本経営管理学会会員、危機管理システム研究学会会員。
2025/11/16
新 世界のリスクマネジメントの潮流
鈴木 英夫
慶應義塾大学経済学部卒業。民族系石油会社で、法務部門・ロンドン支店長代行・本社財務課長など(東京・ロンドン)。外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務め、危機管理広報・リスクマネジメントを担当(大阪)。現在は、GRC研究所代表・研究主幹、リスクマネジメント&コンプライアンス・コンサルタント(兵庫)。日本経営管理学会会員、危機管理システム研究学会会員。
地政学的緊張の高まり、テクノロジー導入の加速、そしてマクロ経済状況の変化により、経営幹部にとっては現在のビジネス環境がかつてないほど予測困難になっている
BDO*)の2025年テクトニック・ステイツ・レポートによると、世界のビジネスリーダーの61%が、レジリエンス(回復力)を自社の最も重要な特性と捉えている。これは、ますます不安定化する世界で事業を展開しなければならない現実を反映した変化である。かつてはリスク管理の基盤となっていた従来の単一シナリオ計画は、変化が加速する環境においてはもはや通用しない。
*)訳者注:「BDO」は、世界的な会計・コンサルティングネットワークの名称であり、正式には「Binder Dijker Otte(バインダー・ダイカー・オッテ)」の頭文字を取った略称。
将来のビジネス環境の予測について調査したところ、経営幹部の73%が、複数の潜在的な未来に同時に備える必要があると回答した。これは、この複雑なリスク環境が永続して続くことを示唆している。現在の状況を一時的な混乱と捉えるのではなく、組織はリスクが戦略的意思決定と業務計画を左右する環境に適応していく必要があるのだ。
BDOは、世界10地域の経営幹部1050名を対象に調査を実施し、2028年までに実現する可能性のある4つの異なるビジネスシナリオを特定した。「4つの世界」フレームワークの基盤となる各シナリオは、根本的に異なるリスク管理アプローチを必要としている。
まず「細分化された世界」がある。これは、政策の不安定さ、地政学的同盟関係の変化、サプライチェーンの混乱により、市場が深くフラグメント化されたビジネス環境を指す。最新のデータによると、我々は既にフラグメント化された状況で事業を展開しており、リーダーの52%がこの環境が今後も続くと予想している。フレームワークに示されたすべての潜在的な将来シナリオの中で、このシナリオは、早期警戒システムの不備と、これまで安定していたサプライチェーンへの過度の依存により、企業に不意打ちを掛けている。
次に「分断された世界」がある。それは、東西の経済モデルが競合する地政学的な二極化を指す。ビジネスリーダーの33%が2028年までに現実になると予想しているこのシナリオは、地域間で異なる規制基準、技術の断片化、そしてコンプライアンスへの根本的に異なるアプローチを特徴としている。この世界では、組織は相反する要件とコンプライアンス指標を持つ、互換性のない経済システムの中で事業を展開するという課題に直面している。
三番目は「加速する世界」である。それは、急速な技術進歩とグローバルネットワークの連携を特徴とする。このシナリオの実現を予測するリーダーはわずか8%だが、テクノロジーが業界全体を変革する中で、組織は人工知能ガバナンスの課題、従業員の適応ニーズの加速、そしてサイバーセキュリティの脆弱性の高まりを専門的に管理しなければならない。現在AI対応のデータインフラストラクチャを整備していると回答したリーダーはわずか42%にとどまっており、これらの要件を満たすことは特に困難となる。
最後は「持続的な世界」である。これは、人間主導で計画的にテクノロジーを導入し、段階的な変化を伴って進む世界を指す。最も穏健な仮説ではあるものの、ビジネスの将来像としては最も実現可能性が低い(7%)とされている。この環境は一見混乱が少ないように見えるが、外部ショックに対する脆弱性という潜在的なリスクを伴う。段階的な変化に慣れている組織は、突然の市場の混乱に対応する俊敏性を欠くことになる。
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