2017/01/17
誌面情報 vol47
Oral History02 お客さんに来てらもう以外にホテルの復興はないんです
株式会社神戸ポートピアホテル 取締役相談役(当時) 中内力氏
聴取日:1999年12月13日
地盤が悪いことを承知して対策していた
ポートアイランドというのは人工島で、埋立地ですから、非常に地盤が悪い。そこへ超高層のビルを造っているわけですから、大きな被害はやむを得んかと思っていたのが、外観から見る限り、まったく被害が無かった。ガラス1枚割れていない。ほっとしましたね。
しかし、南の正面玄関から入って、まず驚いたのが、ロビーが人であふれかえっていたこと。宿泊客が全員客室から避難されて、従業員が渡した毛布を被って、1階のメインロビーで休んでおられたんです。心配していたロビーの上のステンド風の天井やシャンデリアも完全な状態で残っていました。
ポートアイランドのビルがそれほど被害を受けなかったのは、おそらく、新しい建築基準法に基づいて造られたビルばかりであるということと、もう1つは、埋立地で地盤が悪いということを皆が十分承知していて、それに対する対策を可能な限り採用していたということが言えると思うんです。
私がこの超高層のホテルを建てる時に、一番心配したのは、万が一、地震があった時にどんな状態になるかということ。(ゼネコンの)担当部長から説明を聞くと、ここの地盤は30mぐらい下に堅い岩盤層があって、それにコンクリートのパイルの杭を打つ。本館だけで1050本。工事費は杭だけで5億円。そりゃかなわんと思ったけど、やはりビルというのは足元が狂ったらおしまいですから。それだけの研究と対策をやっていたから、建物、設備についてはあまり被害が無かった。
コールド料理だけで朝食を出して下さい
宿泊していたお客様は約300人です。多数のお客様がロビーで休んでおられる。私が第1番に指示したのは朝食ですよ。電気、ガスが無いということをコックが言いましたらから、「コールド料理だけで朝食を出してください」と。ホテルですから冷蔵庫の中に、ハム、ソーセージとか、いろんな食材を持ってます。バイキング方式で料理を出しまで、した。食材はありましたら、どんどんお出しした。周りのマンションの方も来られてね。後から「中内さん、お世話になりました」と言われました。全部無料ですから(笑)。
ホテルに泊まっているお客様は、ずっとここに居られるわけじゃないんで「これからどうなりますか」と聞いてくるんですね。状況もよく分からなかったので、ポータブルラジオをあちこちに置き、それをお客様に直接聞いてもらいました。JRも動いていない、阪神・阪急もすべてダメ、という実態がどんどん確認されました。そうしたら、どうしたらいいか、ということの相談がどんどん来るんですよ。「東京へどうしても帰らないかん」「今日の昼に関空からヨーロッパへ新婚旅行に行く。どうしたらいいんですか」とか。
手の打ちようが無いんですよ。しかし、その時、ポートアイランドのヘリポートにどんどんマスコミのヘリコプターが入って来るんです。「これや」と気が付きました。すぐにヘリポートへ走って交渉しました。「大阪行き、名古屋行き、東京へ帰るヘリコプターは無いか」と言って。有料でしたが、「それでいい」「それで帰る」という方、どうしてもやむを得ない人だけ、ヘリコプターを利用して帰ってもらいました。20人ぐらいのお客さんが利用されたと思います。
関西空港までを高速船で結んでいた神戸シティ・エア・ターミナル(K-CAT)へも従業員を走らせた。高速船で関空へ行けば、飛行機、JR、南海電車もあります。全国どこにでも帰れるんやないか、ということで。そうしたら「船出ません」という返事を従業員が持って帰ってきたんです。岸壁がガサーと崩れちゃって、船が岸壁に寄り着けないわけです。それでも翌日の11時に「船が出る」という連絡が入った。クラックの上に鉄板を溶接で張って人間が通れるものを造ったんですよ。
マイクを持ってお客様にアナウンスしました。「今日12時に、関空に向かって船が出ます。船が出れば、大阪、京都、東京、日本全国どこでも帰られますから、ご利用の方はどうぞ準備してください」と。するとお客さまはワッとね、もう大変な喜びでした。
宿泊のお客さんはすべて帰られて、(その後)営業は停止したんですけれど、マスコミのクルーがたくさんおられたんです。随分長い間、宴会場に泊まり込んで取材しておられました。
水がなかったら大変なことになる
やっぱり一番の問題が水ですよ。水が無かったら大変なことだということを痛感させられました。飲み水ぐらいはビンやら何やらいろいろあるでしょう。問題はトイレなんですよ。全部水洗でしょう。相当大量の水が要るんですよ。その時本当に助かったのは、ホテルの大きなプール2つ。従業員に台車を持たせて、大きなプラスチックのボックスにプールの水をくみ上げて入れました。
従業員は解雇しない
水道もガスも無く、橋も通れないので、営業できないということになりました。ホテルはもう空っぽになっちゃったんですよ。ハードの被害というのは、行政もマスコミも大変な被害を受けているということで対策はどんどん進んで行ったのですが、フローの被害、要するにその時点から売り上げがゼロになる。この被害をどうやってくぐり抜けていくか。しかもいつまで続くか分からない。従業員が600人もおりますからね、もちろん従業員の給料もらえるのかという不安もあります。とにかく従業員に不安を与えたらいかんということで、2日目か3日目か出勤している従業員を全部集めて「会社は従業員の解雇はしない。給与は全額払います。だからみんな安心して働いてくれ」という発表をしました。その後でしばらくしてから雇用調整助成金が支給されるという情報が入ってきて、給料に対する負担というのは大きく軽減されました。一部の企業ですけど、慌てて全員解雇とかいう方針を出した会社もあるんです。
開け放ってあるよりは利用してもらおう
しばらくしましたら、電気、ガス、水道の復旧要員が、日本全国、他地域からどんどん入って来られました。当社はそういう方々に宿泊場所を提供するということで、利用してもらったんです。随分低料金でしたけど、ただ開けて放ってあるよりは利用してもらおうじゃないかということで。まったくゼロで何も無いよりは、そういう要員の方に利用してもらい、ホテルの社会的使命を果たしとるやないかと。震災の時に、ただホテルをクローズしてしまうのでは、何のためにホテルが存在しているのかということになりますから。
この方々は随分長期に利用していただきました。数百人というレベルだと思いますよ。
コンベンションなら来てもらえる
とにかくお客さんに来てもらうということ以外にホテルの復興は無いわけです。ビジネスがどうなるか、観光客がいつ頃帰ってくるか、ということについてはまったく目処が立たない。この地震で、当分ビジネス・観光客は難しいだろうと。そこで、コンベンションのお客様だったら来てもらえるんじゃないか、というふうに考えたんです。
この地域は1981年に北側の会議場、西側に展示会場とこのホテルと3つできまして、神戸のコンベンションセンターということでスタートしたんです。メーンホール700席の会議場があるんですけれど、それ以上の人数ですと会議するところが無い。どうしても1500~1700人ぐらいは入れるような規模の国際会議場を造りたいというふうに前から思っていました。それで、ああいう時ですから、行政にお願いしてもできないということで、何とかホテルでこれを造れないかと考えたんですよ。たまたま敷地の一角に空き地がありましたので、このホテルを設計した事務所に基本設計を依頼したところ、1700人入るという計画書・図面を持ってきた。何としてもこれをやろうというふうに決断したのが、震災から半年後ぐらいでしょうか。
計画は「阪神淡路大震災復興民活第・1号指定」という指定を受け、そして15億円の助成金を頂き、無利息融資もつけていただいて随分支援してもらったんです。この会議場ができて、当ホテルも何とかやっているということかな、と思うんです。何とかこの状態で来ているというのは、この会議場のお蔭だと思ってます。
どうにもならないと思ったことはない
それほど難しかったことは無かったと思います。戦前・戦中・戦後派ですから、いろんなことにぶつかりながら今日まで来ています。もうどうにもならないと思ったことはありません。緊急事態の時は、トップダウンで即決が必要な場合が多いのです。時間の許す限り、情報収集し、分析し、健闘することは必要ですが、しかし、決定の基準は常に社会、地域、顧客のニーズにいかに速やかに的確に応えるかということだと考えます。
(以下、後編に続く)
■Oral History 阪神・淡路大震災 経営者の証言から読み取るBCMの本質
(後編)甲南学園/オリバーソース株式会社/兵庫エフエムラジオ/日本毛織株式会社/生田神社
http://www.risktaisaku.com/articles/-/2282
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