第10回 リスク管理における認知バイアスは8つある
どうしたらそれらを克服できるか?
鈴木 英夫
慶應義塾大学経済学部卒業。民族系石油会社で、法務部門・ロンドン支店長代行・本社財務課長など(東京・ロンドン)。外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務め、危機管理広報・リスクマネジメントを担当(大阪)。現在は、GRC研究所代表・研究主幹、リスクマネジメント&コンプライアンス・コンサルタント(兵庫)。日本経営管理学会会員、危機管理システム研究学会会員。
2025/11/26
新 世界のリスクマネジメントの潮流
鈴木 英夫
慶應義塾大学経済学部卒業。民族系石油会社で、法務部門・ロンドン支店長代行・本社財務課長など(東京・ロンドン)。外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務め、危機管理広報・リスクマネジメントを担当(大阪)。現在は、GRC研究所代表・研究主幹、リスクマネジメント&コンプライアンス・コンサルタント(兵庫)。日本経営管理学会会員、危機管理システム研究学会会員。
リスク管理の専門家は、COSO ERMやISO 31000といったフレームワークに安心感を覚えることが多い。なぜなら、これらのフレームワークは組織とその保証機能に構造・規律、そして秩序感を与えてくれるからだ。しかし、どのようなフレームワークでも、またそれが提供する構造のレベルに関わらず、リスク管理プロセスから排除できない重要な要素が一つある。それは、人間のバイアスである。
バイアスは思考における近道であり、迅速な意思決定を助ける。しかし残念ながら、それによる意思決定が常に正しいとは限らない。バイアスは不確実な状況において迅速な意思決定を助ける一方で、判断を歪めることもある。重要なビジネス上の意思決定のような利害問題では、わずかな歪みでさえ戦略上の盲点、リソースの浪費、あるいは深刻な影響を与える事態につながりかねない。
バイアスは、プロセス設計からリスクの特定と評価、リスクの監視と報告に至るまで、ERMプロセスとそのライフサイクルのあらゆる段階で発生しうる。認知バイアスは様々な形で現れる。例えば、取締役会が一見すると「これしかない」ような(愚)策を選択したり、リーダーがミスを弁明して他者に責任を押し付けたり、あるいはチームメンバーが自らの見解を表明せず、グループに同調したりすることなどが挙げられる。
リスク管理プロセス全体にバイアスが存在することを認識するだけでは不十分だ。リスクリーダーにとって真の課題は、バイアスを積極的に特定し、バイアスに基づく意思決定を最小限に抑え、リスク情報に基づいた意思決定のための緩和戦略を策定しなければならない。今日のERMを形作る最も蔓延している8つのバイアスは、複雑性・イノベーション・自己中心性・過信・アンカリング*1)・確証・フレーミング*2)、そして集団思考である。これらのバイアスとそれらが現れるシナリオを探求することで、リスク専門家は、それらの影響に対抗し、ビジネス上の意思決定への影響を最小限に抑えた手法をより効果的に開発することができる。
*1)訳者注:「アンカリング」(anchoring)とは、最初に示された数値または条件を基点に物事を考えてしまうという心理学用語。
*2)訳者注:「フレーミング」(framing effect)とは、同じ内容の情報であっても、その提示の仕方(枠組み=フレーム)によって、受け手の判断や意思決定が大きく変わる現象のこと。これは、情報の「伝え方」や「表現方法」が、その情報そのものの事実よりも、人々の印象や選択に強く影響を与えることを示している。
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