晩秋の集中豪雨――11月の気象災害――
北海道新幹線の玄関口・木古内を襲った記録的降水
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
2025/11/26
気象予報の観点から見た防災のポイント
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
北海道新幹線に乗って本州側から津軽海峡をくぐり抜け、北海道に入ると、最初に停車する駅が木古内(きこない)である(この駅を通過する列車もある)。その木古内町を、2021(令和3)年11月2日、集中豪雨が襲った。道路は冠水し、道路沿いの斜面では土砂崩れが発生した。この大雨による被害は、木古内町や北斗市を中心に、床上浸水10棟、床下浸水29棟、河川氾濫3箇所、道路の通行止め8路線、鉄道の運休51本、などであった。北海道新幹線も運休した。
この大雨に伴い、アメダス木古内観測所では、12時58分までの10分間に55.0ミリメートルの降水量が観測された。念のため繰り返すが、これは1時間雨量ではなく、10分間に降った雨量なのである。この値は、わが国における10分間降水量の最大記録を塗り替えるものとなった。冬の足音も聞こえる11月、それも北海道での記録更新には驚きを禁じ得ない。今回はこの集中豪雨のメカニズムに探りを入れる。
表1に示すのは、わが国における10分間降水量のランキングである。木古内で2021年11月2日に観測された10分間降水量55.0ミリメートルは、それまで1位であった埼玉県熊谷(2020年6月6日)と新潟県室谷(2011年7月26日)の50.0ミリメートルを余裕で上回り、堂々の1位となった。以下、ランキングの10位までを見ても、出現月は6~9月の暖候期ばかりが占めており、第1位となった木古内の記録が11月に、しかも北海道で観測されたことは驚異的である。表1には載せていないが、11月に観測された10分間降水量としては、和歌山県潮岬で1972(昭和47)年11月14日に観測された38.0ミリメートルという記録が歴代14位になっている。
表1には、筆者の分析による要因も記入した。大雨の要因と言えば、一般には台風や梅雨前線などを思い浮かべるが、表1に列挙された10件について見ると、梅雨前線によるものは1件あるが、台風は1つも登場していない。台風による大雨は、どちらかと言えば、短時間の降雨強度より、長時間降り続くことによる総雨量の方が問題になる。10分間というごく短時間の降水量で見た場合に上位にくるのは、激しい夕立など、大気の成層不安定による雷雨であることが多い。表1にはそれを「大気不安定」と記入した。
ところが、表1に掲げられた歴代順位で第1位の木古内の事例は、成層不安定による単純な雷雨とも異なるように筆者には思えたのである。表1には「収束・地形」と記入したが、その意味については後述する。表1で第4位の高知県清水の事例も、木古内の事例と類似しているように思えたが、かなり古い時代であり資料が少なく、確認することが難しいので「?」を付した。
なお、表には示さないが、1時間降水量に着目すると、木古内で2021年11月2日に観測された最大1時間降水量は136.5ミリメートルで、これは言うまでもなく木古内での極値(歴代1位)であるが、全国的には上位20位までに入らない。
気象予報の観点から見た防災のポイントの他の記事
おすすめ記事
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/11/25
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方