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北海道新幹線に乗って本州側から津軽海峡をくぐり抜け、北海道に入ると、最初に停車する駅が木古内(きこない)である(この駅を通過する列車もある)。その木古内町を、2021(令和3)年11月2日、集中豪雨が襲った。道路は冠水し、道路沿いの斜面では土砂崩れが発生した。この大雨による被害は、木古内町や北斗市を中心に、床上浸水10棟、床下浸水29棟、河川氾濫3箇所、道路の通行止め8路線、鉄道の運休51本、などであった。北海道新幹線も運休した。

この大雨に伴い、アメダス木古内観測所では、12時58分までの10分間に55.0ミリメートルの降水量が観測された。念のため繰り返すが、これは1時間雨量ではなく、10分間に降った雨量なのである。この値は、わが国における10分間降水量の最大記録を塗り替えるものとなった。冬の足音も聞こえる11月、それも北海道での記録更新には驚きを禁じ得ない。今回はこの集中豪雨のメカニズムに探りを入れる。

10分間降水量の歴代順位

表1に示すのは、わが国における10分間降水量のランキングである。木古内で2021年11月2日に観測された10分間降水量55.0ミリメートルは、それまで1位であった埼玉県熊谷(2020年6月6日)と新潟県室谷(2011年7月26日)の50.0ミリメートルを余裕で上回り、堂々の1位となった。以下、ランキングの10位までを見ても、出現月は6~9月の暖候期ばかりが占めており、第1位となった木古内の記録が11月に、しかも北海道で観測されたことは驚異的である。表1には載せていないが、11月に観測された10分間降水量としては、和歌山県潮岬で1972(昭和47)年11月14日に観測された38.0ミリメートルという記録が歴代14位になっている。

画像を拡大 表1. わが国における最大10分間降水量の歴代順位(気象庁の資料に筆者加筆)

表1には、筆者の分析による要因も記入した。大雨の要因と言えば、一般には台風や梅雨前線などを思い浮かべるが、表1に列挙された10件について見ると、梅雨前線によるものは1件あるが、台風は1つも登場していない。台風による大雨は、どちらかと言えば、短時間の降雨強度より、長時間降り続くことによる総雨量の方が問題になる。10分間というごく短時間の降水量で見た場合に上位にくるのは、激しい夕立など、大気の成層不安定による雷雨であることが多い。表1にはそれを「大気不安定」と記入した。

ところが、表1に掲げられた歴代順位で第1位の木古内の事例は、成層不安定による単純な雷雨とも異なるように筆者には思えたのである。表1には「収束・地形」と記入したが、その意味については後述する。表1で第4位の高知県清水の事例も、木古内の事例と類似しているように思えたが、かなり古い時代であり資料が少なく、確認することが難しいので「?」を付した。

なお、表には示さないが、1時間降水量に着目すると、木古内で2021年11月2日に観測された最大1時間降水量は136.5ミリメートルで、これは言うまでもなく木古内での極値(歴代1位)であるが、全国的には上位20位までに入らない。