2018/04/10
熊本地震から2年、首長の苦悩と決断
職員のケア
東日本大震災で被災した自治体の首長さんたちに何人も益城町に来ていただいたのですが、皆さんに助言していただいだいたことは、財源と職員の2つについてです。
財源については「お金のことは心配するな。全部国が支援してくれる。」ということでした。しかし、実際は、特別措置法が適用された東日本大震災と熊本地震は違っていて、財政上非常に厳しい状態にあります。
もう1つ、「職員を守ってください」ということを多くの首長さんから言われました。東日本大震災では、心身に支障をきたしてしまった職員もいたということで、本町においても、災害対応の最前線に立つ職員は膨大な量の業務を抱えながら、一方では自らも被災者でもあるという状況下で大きなストレスにさらされており、私自身(町長)が守らなくてはいけないと思いました。
そこで、震災から1か月ぐらい過ぎた段階で、職員にはストレスチェックを行うとともに、リラクゼーションルームを開設してカウンセリングが受けられるようにしました。
また、課長には、「部下職員に1週間に1回、半日でもいいから休みを取るように。」と指示を出しました。課長の中には、責任感が強く「全国から来ていただいている支援職員が休んでいないのに自分たちが休めるはずがない。」と言う人もいたのですが、「支援職員の方たちは、あなたたちを休ませるために来てくれているのだから遠慮しないで堂々と休んでいい。」と伝えました。
最終的にはトップが責任を持つ
有事の時には、職員が安心して仕事ができるようにリーダーがぶれることはなく、的確な指示を明確に伝えることが大切だと思います。私自身、「最終的には自分が責任を持つ」ということは、災害前からいつも職員に話していました。ただし、現場からいろいろな情報をもらわないと適切な判断ができませんから、とにかく、どんな情報でも入れるように職員には伝えていました。
平常時は、議会や県のいろいろな部署と相談しながら判断しますが、災害時は相談をしている時間もなく即断をしなくてはいけないことも多々あります。的確な判断を行うためには、ある一方の情報だけを聞いて判断するのではなく、1分、2分でもいいので少し待って周囲の状況を把握するとともに、災害対応のプロである自衛隊や消防、警察の方の意見も聞いて、最終的に自分が決定・決断することが大事だと思っています。
もちろん、目の前の人をすぐに助ける場合とは分けて考える必要がありますが、即断即決は見た目がかっこ良くても取り返しのつかないことになる可能性もあります。特に、マスコミがどんどん来ますのでメディアを意識してスタンドプレーをすると、事態を悪化させることがあるので気を付ける必要があると思っています。こうした判断能力は、トップ自身のレベルを上げる必要があり、特に過去の災害における対応やプロセスの情報を参考にトップ自身が防災力をつけておくことが大切です。
受援計画を作成
熊本地震後は、新たに危機管理課を新設し、地震対応の検証や受援計画の策定を進めています。例えば、物資の支援については4月29日の時点で、備蓄倉庫に入れる余裕がないということで受入れをお断りしてしまいました。また、支援職員の配置についても、応急危険度判定士や被害家屋の認定調査を行う職員が不足していました。
実はこうした経験や資格を持っている職員も全国から応援に来ていただいていたのに、その職員の能力を生かすような配置ができず、うまく機能させることができなかったということを検証報告書の中で反省として挙げています。
支援側への要望
他方で、支援を出す側にも考えてほしいことがあります。例えば、職員の派遣については、この資格を持っていて、今までにどんな経験があるとか、簡単な履歴書でいいから一緒につけていただくと大変助かります。プッシュ型の支援により、全国から一日あたり500人ほどの職員の方に支援に入っていただき、とても助かりました。
しかし、1週間程度で交代になる方が多く、迅速に適材適所に配置し、スムーズに引き継げるようにするためにも、今回の教訓を生かしていくことが重要だと思いますので、現在、講演会など機会があるごとにこの話をしています。
住民への連絡が課題
住民への情報提供も課題が残りました。防災行政無線の基地局が被災して情報が行き渡らず、各区長とは固定電話がつながらず、八方手をつくし携帯番号を調べて連絡を取りました。軒先避難も多く、家の前のビニールハウスに避難されている方、指定避難所以外の地域の集会所や公民館に避難されている方や車中泊の方には、なかなか連絡が取り合えなかったので、この点は今後、新たなシステムの導入も含め検討していく予定です。
一人ひとりの復興が最優先
復旧・復興については、復興計画において5つの重点プロジェクトを設定して取り組んでいるところですが、一番優先すべきは、一人ひとりの復興、つまり被災者の皆様の生活再建です。この点で仮設住宅の入居期間が1年間延長されたのは非常に良かったと思っており、この間にいろいろな生活再建ができるよう努力していきます。
同時に、災害に強いまちづくりのためには、区画整理や道路の拡幅などを進めていく必要があります。阪神・淡路大震災では神戸市も最初は火事が5~6件しか発生していなかったのに、道路が狭くて消防車が入れず、水道も出なかったということで一気に火災が広がってしまいました。実は益城町も同じ状況で、もしあと1~2軒から火が出ていたら、とても消火できなかったという話を聞いています。消防団には倒壊家屋の中から51 人もの方を助け出してもらっているのですが、もし火事が起きていたら、その方たちの命も助けられなかったのではないかということもあり、これらのことが区画整理や道路の拡幅の取組につながっています。
施設等のハード面の復旧については、原形復旧が基本ですから、その上乗せとなると、町の単独予算の持ち出しとなり予算的になかなか難しいのが現実です。例えば、橋の復旧について、4mの橋を建て替える場合、基本は4mのままなのですが、災害時の交通確保のため6mにするとなると2m分が町の負担になります。本当は今回の被災を機に防災の強化につなげたいのですが、原形復旧の考え方が創造的復興のネックになる面があります。こういうことを国(や県)に話をして、改善を求めていくことが私の役割ではないかと思っています。
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