最も深刻な問題の一つは「電源確保」

敷地内の井戸水が使用できたため、泥のかき出しから手をつけた。直面した大きな問題の一つは電源の喪失だった。台風後も電気の送電網自体には問題なかったが、高圧電気を受電し電圧を変えて工場内に電気を分配する設備であるキュービクルが浸水したため、電気が使用できなかった。

電源の問題は発電機を借りることで最初の対策を実施。同社の本社工場の建て替えを施工したゼネコンの安藤ハザマから申し出があり、提供を受けることができた。続いて、エリアの送配電を管轄する中部電力に依頼し、仮設で高圧電源を受けられるようにした。再開後の工場では浸水対策として冷凍庫のキュービクルには架台を設けて2階に設置している。

電源喪失の影響が長く響いた一つは排水処理だった。一度設備が止まると、再開にまで3カ月が必要だからだ。工場では微生物を利用して有機物を分解させる活性汚泥法で水を浄化してから排水する。しかし電気が停止したため設備が停止し、設備内の微生物が全滅した。排水処理の再開には効果的に有機物を分解できるまで微生物を増やさないといけない。1000トンの死滅微生物を含む汚泥を処理し、新たな微生物を育てて入れ替えるのに3カ月かかる。

同社豊野工場の中村正和工場長は「生産ラインが復旧しても、排水処理設備が復旧しなければ再稼働はできない。関係業者のご協力のもとスムーズに進めることができた」と話す。

代替困難かつ修理が難しい工場機械類

商品の生産にも多くの困難が発生した。豊野工場は主力のリンゴの他、モモ・ブドウなどを搾汁し、それを18リットル缶やドラムなどの容器に充填(じゅうてん)し、食品メーカーへ原料として販売することがメインで、その他に瓶ジュースの製造ラインを持つ。原料を投入してから果汁を容器に充填するまでの多くの機械がダメージを受けた。水井社長は「リンゴジュースの味を左右する機械はほとんどがオーダーメイド。復旧対象の機械設備をリスト化すると180件もあった」と説明する。

「果汁を搾る方法は何パターンもある。メッシュに果実を押しつけて果汁を搾る方法やベルトの中でつぶすような方法などさまざま。リンゴは酸素に触れると変色しやすく、それを防ぐためにビタミンCを吹きかけながら果汁を搾るところが多い。しかし弊社では窒素ガスの雰囲気下で空気に触れずに搾る独自製法で、おいしいジュースと評価をいただいている。味を左右する機械を簡単に変えることはできない」(水井社長)

機械の修理はまずはメーカーに依頼した。しかし依頼をした180件のリストのうち、数社からは期待する回答が得られなかった。古くて修理できないことから1 億数千万円の新規機械導入の提案を受けたり、すでに営業していない会社もあった。そこで利用したのがメーカーではないが、洗浄と修理などを行う災害復旧サービスだったという。

「火災保険に加入していて、水害も対象範囲。保険会社から紹介されたのがリカバリープロだった。新たな機械を導入する前にダメ元で試したというのが本当のところ」と水井社長は語る。中村正和工場長は「難しい電気関係も含め、洗浄と乾燥で使えるようになるとは思わなかった。実際、動作できる状態にまで戻してもらった」と振り返る。

食品工場ゆえに衛生的な環境を改めて整備し直す必要もあった。工場は洗浄殺菌の上、全ての壁を貼り直した。自主検査を実施しクリーンな環境を整え、保健所からの再稼働許可を得た。