公助は届かない

当初15の避難所が開設されましたが、宇土市が備蓄として持っていた食事は8000食です。前震の後、半分ぐらい使ってしまい、本震の後は3000~4000しか残っていなかった。そこに6500人ぐらいの方が来られたわけです。公民館に避難している人や公園にいる人には届くはずがありません。今後は、やはり個人で少なくとも3日分ぐらいの水、食料を備蓄する必要性を訴えていくしかありません。それと、遠くに移動できない高齢者は地区の公民館などに集まるので、そういう所に備蓄品を置いて対応してもらう。市が指定する避難所以外の小規模避難所に対しても、事前にいかに手を打っておくかということも大事だと思います。
それから、やはり近所づき合い。向こう三軒両隣の助け合いが必要だということを強く訴えていかなければいけません。

多目的の視点で復興を考える

復興で苦労しているのは、業者が足りないことです。応札が無い工事も多く、今のペースでは最低5年はかかると見ています。しかし、元に戻すだけだったら、どうにでもなると思うのです。いかに将来につなげるか、プラスアルファを出すかが大切です。例えば、被災した公民館や老人センターをつくり変える際に避難所としても活用できるようにしておく。何年かに1回しか使われないような施設に「お金をかける」ということではなく、通常は他の目的で使用するが、防災時には拠点となるような、単目的ではなく、多目的にしていく視点が創造的復興ではないかと考えています。

 

元松茂樹氏 プロフィール

■生年月日
昭和40年3月8日

■学歴
昭和62年 3月 熊本商科大学商学部卒業
平成14年 3月 自治大学校2部課程修了

■職歴
平成3 年 4月 宇土市役所入庁
平成21年 4月 総務課主幹兼行政係長
平成21年12月 宇土市役所退職
平成22年 4月 宇土市長就任

 

本インタビューから学ぶ危機管理トップの心得

冒頭にも書きましたが、このインタビュー内容だけでトップの行動の是非を検証することはできません。ただし、常にトップ、あるいは危機管理担当者が考えておくべきポイントはいくつかあったと思います。ここでは、「スピードある意思決定とフォロワーの役割」についての私見を述べさせていただきます。※あくまで個人的なもので、検証報告書の内容とは一切関係がありません。

スピードあるトップの決断
倒壊しそうな宇土市庁舎の写真を見たことがある人は少なくないと思います。災害対応において庁舎がいかに重要であるかということは改めて言う間でもありません。ただ、正直、元松市長の話を聞いて、庁舎が使えない中、現地でこれほどの対応がされていたことには驚きました。市長の口からは幾度となく「スピード」という言葉が出てきましたが、これほどスピードある意思決定が次から次へとできたということは、危機発生時の優先順位というものが、頭の中で整理されていたのだと思います。
その優先順位とはすなわち、「人命の救助」「被害拡大の防止」「生活・財産の保護」です。それを実現するために対策本部は、事態を把握し→リスク(さらなる危険性)を評価し→今後の対応方針を決定して→対応→改善をします。こうした大きな対応の流れを、普段から頭に入れておくということが大切だと思います。このスピードについては、今回、他の首長からも同様の話を聞くことができました。
もう1点は、フォロワーの役割です。トップの意思決定に従うだけでなく、専門的な知見から助言できる関係を構築しておくということが大切だと思います。水道の例で説明がありましたが、濁っていても早く水道を出そうとした市長を止めた職員の行動は評価すべきで、一人ひとりが目的・目標を共有していないとこれはできません。一方、トップが、こうした助言を冷静に聞き入れられるようにするには、前回も書いた通り「任せる」ということとを口先だけでなく心から実施できるようにすることと、自らを客観的に見る謙虚さが必要なのだと思います。上司にとって最も難しいことは「任せること」という話を聞いたことがありますが、これは平時のリーダー論にも通じる点だと思います。