2022/11/30
寄稿

11月、東京都がパートナーシップ宣誓制度を開始しました。いわゆるLGBTの方を対象に、法的な婚姻関係にない二人が「人生のパートナー」として宣誓したことを公証する制度です。なぜいまこうした制度が社会から求められるのか、どのような利活用が図られるのか、企業はどのような対応が必要なのか。弁護士・公認不正検査士の山村弘一氏に解説いただきました。
東京弘和法律事務所/弁護士・公認不正検査士 山村弘一
はじめに―LGBT/SOGI対応の重要性―
本サイトの読者の方々にとって、LGBTという言葉をご存じない方はいらっしゃらないのではないかと思います。LGBTという言葉は、新聞、雑誌、テレビ、インターネットなどのニュースメディアで毎日のように取り上げられており、日々、何らかの形で見聞きし、使用されているのではないでしょうか。それほどまでにLGBTは日本社会に流布した言葉であるといえます。
改めてご説明するまでもないようにも思いますが、LGBTとは、Lesbian Gay Bisexual Transgender の各頭文字をとったもので、性的指向(自己の恋愛又は性愛の対象となる性別についての指向/好きになる性)・性自認(自己の性別についての認識/心の性)の観点で性的マイノリティといわれる方々の総称として用いられています。
LGBTを巡っては、Diversity and Inclusion(多様性と包摂)を目指すという時代の大きな潮流のなかで、LGBTの方々が社会において直面している差別、困難、生きづらさ等につき徐々に理解が進み、その解消に向けて社会が動き始めているところであるといえます。

一方で、国会や地方議会の議員が、その思い込みや偏見に基づいて、LGBTについて差別的な発言をしては、撤回し謝罪する(ときには開き直る)ということが散発しているのも、現代の日本社会の偽らざる現状でもあります。このような状況が散見されるのは、LGBTを他人事として捉えていることが一因として指摘できるように思われます。
この点、LGBTという言葉・概念に代わりうるものとして、SOGIという言葉・概念が存在します。SOGIとは、Sexual Orientation and Gender Identityの各頭文字をとったもので、性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)を表すものです。
性的指向・性自認を巡る諸問題について、LGBTという言葉・概念では、LGBT当事者でない者にとって、「彼らの」問題としてやり過ごす余地を与えかねないもどかしさがあるといえます。一方、SOGIという言葉・概念は、それらの諸問題を「我々の」問題として捉え直し、現代社会に生きる全ての人たちにとっての共通課題であると再構成・再認識することができる契機・パワーを秘めた言葉・概念であるといえるように思われるのです。
いずれの言葉を用いるかは極めて重要な点であると思われますが、ここではひとまずおき、一般に広く流布しているLGBTを用いることにします。ただ、いずれにしても、現代の日本社会において、公・民の別を問わず、LGBT当事者に対し不当な差別をしないことは、「法の下の平等」(憲法14条1項)を持ち出すまでもなく、極めて当然のことです。

そして、それにとどまらず、公的機関も民間事業者も、職員・従業員との関係のみならず、市民(国民)・顧客との関係でも、LGBTを巡る諸事項について、適切な対応や取り組みが求められているといえます。これを怠ったり、誤ったりしてしまうと、当該機関・当該事業者は、その社会的な評価・信頼を失墜してしまいかねません。これらは、クリティカルでセンシティブなものであるといえるのです。
このことに関連し、2022年11月、東京都がパートナーシップ宣誓制度の実施を開始しました。本稿では、同制度の概要と民間事業者における利活用について、ご紹介したいと思います。
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