2023/11/06
防災・危機管理ニュース
CBRNと呼ばれる危険物質によるテロを想定した訓練が5日、日本大学危機管理学部のある三軒茶屋キャンパスで実施された。同大学のNBCテロ災害対処研究会が学園祭「三茶祭」のイベントに企画。海上保安庁と東京消防庁、警視庁、陸上自衛隊が参加した。海上保安庁は初の参加となった。
CBRNは化学(Chemical)、生物(Biological)、放射性物質(Radiological)、核(Nuclear)の頭文字を取った言葉で、これらの危険物質を用いたテロは「CBRNテロ」と呼ばれる。最近では爆発(Explosive)をつけCBRNeと表記されることもある。NBC(nuclear、biological、chemical)災害とほぼ同じ意味で使われる。
今回の訓練の想定は、東京で開催されている大規模な国際スポーツイベントの会期中。東京湾を航行中のクルーズ船内で化学剤がまかれた。第1報を受け取った海上保安庁がクルーズ船に乗り込み、負傷者を船外へ救出。東京消防庁は負傷者を受け取り救助活動に入る。警視庁は操作のために船内にまかれた化学剤を採集し、陸上自衛隊が現場を除染する。

訓練に先立ち、危機管理学部の学生がCBRNEテロについて基本的な説明を行った。地下鉄サリン事件、米国・炭疽菌事件、福島第一原子力発電所の事故などの事例を列挙。化学剤の毒性などについて語った。続いて防衛医科大学校の学生が、化学剤に暴露されたときの症状と処置について述べた。
クルーズ船のレストランで、置かれていた紙袋から液体が漏えし、近くにいた乗客が次々と体調不良になるところから訓練はスタート。乗客を演じた学生たちが苦しみはじめた。その後、海上保安庁にクルーズ船の乗員から海上における緊急通報番号「118」が入る。到着したのは防護服を身にまとった海上保安庁の特殊救難隊。検知器で有毒化学剤を調べる。簡易検知によりサリンが検出されると指揮所へ報告する。トリアージを実施し、負傷者に付着したサリンを取り除くために衣服を部分的に裁断。揮発を防止する措置などを実行した。重症者には自動注射器で解毒剤が投与された。
負傷者を受け取ったのは東京消防庁世田谷消防署とNBC災害専門部隊である消防救助機動部隊。船が接岸する前にターミナルに到着すると毒劇物危険区域、危険区域、除染区域を設定し応急除染所を設置。その後、受け取った負傷者の除染活動を慎重に行い、搬送した。

続いて船内に入ったのは警視庁の第1機動隊だ。ビデオ撮影をしながら、検体を密閉容器に回収。撮影は証拠の信頼性を高めるため。除染を実行したのは陸上自衛隊・中央特殊武器防護隊の除染班。吸着剤などを利用し、物理的にサリンを除去した。除染剤も散布し、ブラシで攪拌することで化学反応を促進し、無害化させる。続いて検知器で効果を確認し、除染完了となった。それぞれの隊は、現場を離脱する際には東京消防庁の除染を受けた。
NBCテロ災害対処研究会代表の野口雅葵さんは「(参加された)みなさまは、日々、過酷な訓練を実施し、いかなる厳しい任務にも取り組む姿勢で国民の生命と財産を守っています。あらためて関係機関の活動にご理解をいただきたい」と締めくくった。
NBCテロ災害対処研究会代表の野口雅葵さんは「(参加された)みなさまは、日々、過酷な訓練を実施し、いかなる厳しい任務にも取り組む姿勢で国民の生命と財産を守っています。あらためて関係機関の活動にご理解をいただきたい」と締めくくった。
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/17
-
サイバーセキュリティを経営層に響かせよ
デジタル依存が拡大しサイバーリスクが増大する昨今、セキュリティ対策は情報資産や顧客・従業員を守るだけでなく、DXを加速させていくうえでも必須の取り組みです。これからの時代に求められるセキュリティマネジメントのあり方とは、それを組織にどう実装させるのか。東海大学情報通信学部教授で学部長の三角育生氏に聞きました。
2025/06/17
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方